SABOの八つの世界    

    私の選んだ世界映画史上ベストテン
                 (その1)

                      
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 私の選んだ世界映画史上ベストテン(日本映画を含む)を次にあげてみます。
 著名人が個人的に選んだ映画史上ベストテンなんかを見てみると、なかには聞いたこともないようなB級映画が入っていたりすることがあるものですが、私が選んだベストテンでは、そうした意外性がある作品は少ないと思います。このうち『サウンド・オブ・ミュージック』『オリバー!』『ウエストサイド物語』『アラビアのロレンス』『ベン・ハー』の五本はアカデミー作品賞を受賞しており、『ロミオとジュリエット』と『サンセット大通り』は作品賞の候補になっています。また、『生きる』『七人の侍』『羅生門』は黒澤明監督の代表的な傑作。『オリバー!』と『ロミオとジュリエット』をのぞけば、映画史上の名作の定番としてあげられる作品群であり、そういう点では、あまり面白みのないベストテンかもしれません。


(1位は2作品)
1.『サウンド・オブ・ミュージック』(ロバート・ワイズ監督)
1.『オリバー!』(キャロル・リード監督)
3.『ウエストサイド物語』(ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンス共同監督)
4.『生きる』(黒澤明監督)
5.『七人の侍』(黒澤明監督)
6.『ロミオとジュリエット』(フランコ・ゼフィレッリ監督)
7.『アラビアのロレンス』(デビッド・リーン監督)
8.『ベン・ハー』(ウィリアム・ワイラー監督)
9.『羅生門』(黒澤明監督)
10.『サンセット大通り』(ビリー・ワイルダー監督)
(参考 11.『タワーリング・インフェルノ』 12.『バック・トゥ・ザ・フューチャー』 13.『波止場』)


 6位から10位は、『私の選んだ世界映画史上ベストテン(その2)』で解説しています。


1. 『サウンド・オブ・ミュージック』(ロバート・ワイズ監督)

 『サウンド・オブ・ミュージック』というのは、特に男性の場合「食わず嫌い」が多いみたいですね。そのイメージからして女性や子供向けの映画という感じで、「オレの好みじゃないや」みたいな気持になるんでしょう。ミュージシャンの宇崎竜童(りゅうどう)さんなんかもその一人だったようです。奥さんで作詞家の阿木(あき)燿子(ようこ)さんに、すばらしい映画だから見るようにといくら(すす)められても長年見ませんでした。しかし、ようやく鑑賞してみたら泣いたということで、どうして今まで見なかったのかと後悔したということです。

 私がこの映画を見たのは小学校を卒業したばかりのころでしたが、その頃『ドレミの歌』とかが(ちまた)でははやっていたんですけど、「何、『ドはドーナッツのド』って」という感じで、あんまり興味がなかったんです。でも、映画を見てみたらこのシーンは凄い。まさに映画表現の極致(きょくち)。一つの歌がこれほど見事な映像表現になりうるのか……といった感じでした。でも、歌として最高に素晴らしいのは「サウンド・オブ・ミュージック」「私のお気に入り」「エーデルワイス」といった作品です。CMなどでもよく使われている音楽ですから、映画を見たことのない人でもメロディーは知っているでしょう。

 確かに、この映画は音楽が見事だし、主演のジュリー・アンドリュースの魅力も圧倒的なんですけど、これほどの大傑作になったのは、やはり脚本と演出の賜物(たまもの)です。まさに完璧(かんぺき)な脚本と演出。オリジナルはブロードウェーの演劇のミュージカルですけど、その脚本はかなり欠点もあったようです(近年、劇団四季などで上演されているのは、映画の要素を取り入れていて、完全なオリジナルではない)。それをシナリオライターのアーネスト・リーマンが完璧なシナリオに仕立て上げ、最初は『砲艦サンパブロ』の撮影スケジュールと重なったため監督を断っていたロバート・ワイズ監督に見せて説得したということです。ワイズ監督もその出来に驚いたとか。このコンビは『ウエストサイド物語』を作ったばかりでしたけど、続けてミュージカル映画の最高傑作を生み出したわけです。

 ちなみに、ワイズ監督の前は『ベン・ハー』のウィリアム・ワイラーが監督をすることに決まっていたのですが、彼は元々このミュージカルが好きではなく、結局サスペンス映画の『コレクター』の撮影スケジュールを優先して監督を降りてしまいます。当時、ワイズはワイラーに次のような手紙を送っています。

「ウィリー、これほど見事な脚本があるのに、君がこの映画の監督を降りるなんて信じられない」

 映画『サウンド・オブ・ミュージック』は質的にも興行的にも大成功し、映画史上最高の興行収入をあげたのですから、ワイラーは後悔したのではないでしょうか。では、当時のこの映画の評判はどうだったのでしょうか。一般大衆は夢中で見てましたが、「芸術映画ずき」の映画評論家は評価しなかった人たちが多かったようです。キネマ旬報のベストテンでも9位。ちなみに映画評論家の佐藤忠男氏は次のように評してます。

「……絵本のようにきれいな眺めを、例によって身振りの大きなカメラワークで、たっぷり(なが)めさせ、甘い音楽と、御家庭向きのストーリーをていねいにサービスした、というだけのもので、内容的には見るべきほどのものはない」

 『サウンド・オブ・ミュージック』というのは、おそらく何千年のちまで残るような映画でしょう。しかし、このような映画評論家の見当違いの批評も、「恥の記録」として残したいものです。


1. 『オリバー!』(キャロル・リード監督)

 この作品は『サウンド・オブ・ミュージック』と甲乙(こうおつ)つけがたいのでどちらも一位にしました。しかし、今の若い人でもミュージカル映画のなかで『サウンド・オブ・ミュージック』や『ウエストサイド物語』は知っている人が多いでしょうが、『オリバー!』というのは聞いたこともないという人がほとんどではないでしょうか。ある程度年がいった人でも、マーク・レスター主演の映画といえば、日本だけでヒットした小品の『小さな恋のメロディー』は見たけれども、『オリバー!』というのはちょっと名前を聞いたことがあるだけ、というのが大半ではないかと思います。

 『オリバー!』はイギリスの文豪のチャールズ・ディケンズ原作の『オリバー・ツイスト』という小説をイギリスでミュージカル化したものです。最初はロンドンの舞台で上演されましたが大ヒットし、アメリカのブロードウェイでも成功しました。それを『第三の男』のキャロル・リード監督で映画化したのがこの映画です。アカデミー作品賞、監督賞をはじめ六部門で受賞しましたが、日本では、ほとんどの映画評論家は全く評価せず、マスコミも冷淡でした。「くすんだ色調のミュージカル」とかいわれ、本当にひどかった。(当時、評論家のなかで、自分が愛する『2001年宇宙の旅』がアカデミー作品賞の候補にもならず『オリバー!』が受賞したので、怒っていた人たちもかなりいたようです。もっとも私は、『2001年宇宙の旅』は失敗作だと思ってますが)過小評価という点では『サウンド・オブ・ミュージック』の比ではありません。作品の真価と評論家の評価がこれほど乖離(かいり)した映画はなかったといってもいいと思います。そのことが「映画評論家とは最も映画を見る目のない連中のことである」と私が考えるきっかけになったといってもいいでしょう。キャロル・リード監督の『第三の男』は映画史上の名作としてあげる人は多いですが、総合的に見て『オリバー!』のほうが数段上の出来というのが私の評価です。

 この映画について述べたいことは多々(たた)ありますが、ここでは『買ってくださいな』というミュージカルナンバーについてだけ触れておきたいと思います。というのも、このシーンは、『サウンド・オブ・ミュージック』の同名の主題歌が二度目に歌われる場面と同様、私が映画を見て、生涯二度と味わえないほどの深い感動を受けた場面だからです。キャロル・リード監督といえば、『第三の男』の映像美については無数に語られているでしょうが、『オリバー!』の映像美について述べられることはまずない。しかし、この『買ってくださいな』のシーンは、世界映画史上に美の極致を示したといってもいいと思います。今まで不幸な人生を送ってきた主役の少年が始めて味わう「幸福」を歌う場面。その歌詞と音楽、そして映像の融合により、これほど美しい場面が生まれたことは一つの奇跡といっていいでしょう。


3. 『ウエストサイド物語』(ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンス共同監督)

 『ウエストサイド物語』が最初に上映されたときは私はまだ小学生で、その存在すら知りませんでした。ですから、私がこの映画を最初に見たのは、リバイバル上映された高校生のときになります。ただ、この映画が最初に上映されたときの大衆の熱狂ぶりについては、何度も読んだりしました。当時はまだ映画館は自由席が中心だったので、映画館に入場すると同じ映画を何度も見られるわけです。したがって弁当を持参して映画館に入り、この映画を何度も鑑賞し、それを一週間続けたなんていう人たちが続出したそうです。一種の社会的な事件だったとさえいわれてました。それほど当時の若者たちにとって、この映画の出現は衝撃的なものだったのです。

 それまでのミュージカル映画にはなかった高いドラマ性、社会性、鮮烈なカメラワークと演出、そして何よりもその音楽とダンス。それらが彼らを魅了したわけです。音楽はレナード・バーンスタイン。カラヤンに次ぐような大指揮者ですが、作曲家でもありました。ただ、ある音楽関係者が「バーンスタインは作曲家としては二流。ただし『ウエストサイド物語』はすばらしい」と言ってました。たしかに『トゥナイト』『マリア』など名曲が多数あります。私はこの映画そのものは、大傑作と認めながらも必ずしも好みではありませんが、映画のサウンドトラック盤は何十回も聴いていました。

 そしてダンスを指導したのはこの映画の監督もしたジェローム・ロビンス。『ウエストサイド物語』はもともとブロードウェイの舞台ミュージカルですが、この振り付けをしたのがロビンスです。彼のダンス指導なしにはこの映画は成り立たないわけですが、映画会社が彼にミュージカルシーンの振り付けを依頼したところ、監督もやらせてくれなければ引き受けないと言ったそうです。そこで困った映画会社はベテラン監督のロバート・ワイズに共同監督を依頼しました。ワイズは「共同監督なんてうまくいくわけがない。ロビンス一人に監督をまかせればいいじゃないか」と言ったそうですが、映画会社の重役は「いや、彼は映画については何も知らない」と言ってワイズを説得したそうです。しかし、この重役の判断は適切でした。もしロビンス一人に監督をまかせていたら大変なことになっていたでしょうから。

 昔聞いた話では、この映画では二人の監督の意見が合わずにロビンスはすぐに監督を降りてしまったとかいうことでした。しかし、メイキングを見るとそうではなかったようです。ロバート・ワイズも完全主義者といわれてますが、ロビンスはそれをはるかに上回る、ちょっと異常なくらいの完全主義者だったそうです。俳優たちのダンスに対しても、いくらリハーサルをやってもOKを出さない。やがて彼らは足の裏が血だらけになってぶっ倒れたりしたそうです。当然撮影は遅れに遅れてしまい、たまりかねた映画会社は彼をクビにしました。ただ、ダンスのリハーサルは完全にできていたので、監督がワイズ一人になってから映画撮影はスムーズに進んだということです。

 ロバート・ワイズというのは、いろんなジャンルの映画を手がけるので昔から「職人監督」とかいわれてましたが、現在では様々なジャンルの映画の監督をしているスピルバーグに近いタイプといえるでしょう。ただ、映画ファンの人気はけっこう高いのに、以前キネマ旬報の人気監督の投票を見たら、映画評論家の評価は異常に低いので驚きました。たしかに、その映画の多くは「中の上」から「上の下」ぐらいのが多いのですが、『ウエストサイド物語』と『サウンド・オブ・ミュージック』の演出は天才的といってもいいほどのものです。特に『ウエストサイド物語』の冒頭にくり広げられるダンスシーンの映像は凄い。これほど凝縮(ぎょうしゅく)された見事な映像表現は、黒澤明の『羅生門(らしょうもん)』ぐらいしか思いつきません。


4. 『生きる』(黒澤明監督)

 世界的な映画監督の代表作を一本だけ選ぶとしたら何になるでしょうか。一般にいわれているのは、デビッド・リーンなら『アラビアのロレンス』、キャロル・リードは『第三の男』、フェデリコ・フェリーニは『道』、エイゼンシュテインは『戦艦ポチョムキン』といったところ。では日本が世界に誇る黒澤明監督は。まあ、『七人の侍』という答が一番多いでしょうが、『生きる』をあげる人もけっこういます。私もその一人。たしかに『七人の侍』は大傑作ですが、『生きる』はそれを上回ると思うのです。

 この映画は、一人の定年間近(まぢか)の公務員が胃ガンで死んでしまうという話。なんか地味で暗そうな話に思えるでしょう? 私はいわゆる「難病もの」というのも苦手(にがて)だし、めそめそした暗い映画も嫌い。だから、今こういうテーマの映画が公開されても決して見たくはない。でもこの『生きる』という映画は、もうそういった先入観をふっとばすような作品です。暗い深刻な芸術作品だろうなどと思ってこの映画を見たら、ぶったまげますよ。なにしろストーリーがメチャクチャ面白い。悲劇なのに観客はしばしば爆笑する。この映画に較べたら、今の日本の娯楽映画なんて退屈でしようがないというぐらいです。

 まず脚本が完璧です。映画史上における最高の脚本はどれかと問われたら、私は、脚色では『サウンド・オブ・ミュージック』をあげますが、オリジナルの脚本では躊躇(ちゅうちょ)なくこの『生きる』だと答えます。そして黒澤監督の演出が凄い。よく『七人の侍』は「動」だが、『生きる』は「静」だといわれます。『七人の侍』は活劇で、『生きる』は一人の人間の苦悩を描いたドラマだからということでしょうが、黒澤監督の演出はとても「静」なんてものではない。これほどダイナミックな演出のシリアスドラマはちょっとないといってもいい。まさに『羅生門』や『七人の侍』と同じような縦横(じゅうおう)無尽(むじん)のカメラワーク。たとえば、志村(たかし)が演じる主人公が“カフェー”で『ゴンドラの歌』を歌う場面。この悲しくしっとりとした場面でのカメラの動きの凄さ。「えっ、このシーンでカメラはこんな移動する?」というような度肝(どぎも)を抜くようなカメラワークです。でも、それがこの場面にピタッとはまっている。

 仮に、若い映画監督の志望者に映画演出の最高の教科書となる映画をあげてもらいたいといわれたら、私はデビッド・リーン監督の『ドクトル・ジバゴ』とこの『生きる』をあげます。ただ、『ドクトル・ジバゴ』の脚本は最高とはいいがたいけど、『生きる』は脚本も完璧。だから、観客をドラマに引きつけ、楽しませ、そして感動させる映画になっているのです。


5. 『七人の侍』(黒澤明監督)

 この作品はあまりにも有名な日本映画です。海外でも、この映画をもとにした西部劇の『荒野の七人』が作られたし、アクションシーンでスローモーションを用いるなどの演出テクニックも、多くの映画に影響を与えています。映画人にかぎらず、この映画を語らせたら止まらないなんて人も多い。すでに語り尽くされた感もあるので、私が付け加えることはあまりありません。そこで、ここではちょっと趣向を変えて、黒澤明監督に関する本の紹介をしようと思います。実際、『七人の侍』をはじめとする黒澤監督の映画撮影のエピソードというのは、今の並の映画を見るよりよほど面白い。また、その人生に関しては、映画『トラ・トラ・トラ!』をめぐるトラブルなど、いまだに謎に満ちた部分も多い監督でもあります。もし黒澤監督の伝記映画を作ったら、面白い映画になるのではないでしょうか。

『パパ、黒沢明 (文春文庫)』 (黒澤和子著)
『回想 黒澤明 (中公新書)』 (黒澤和子著)
 黒澤和子さんは黒澤監督の娘で、映画の衣装デザイナーでもあります。黒澤監督の晩年の作品の衣装デザインも担当しているので、公私ともに最も黒澤明を知っている人といえるでしょう。家族でしか知り得ない黒澤監督に関する興味深いエピソードが多数書かれています。

『天気待ち 監督・黒澤明とともに (文春文庫)』 (野上照代著)
 野上照代さんは映画のスクリプターとして黒澤監督のほとんどの作品で一緒に仕事をしてきた人です。山田洋次監督の『(かあ)べえ』の原作者でもあります。スクリプターというのは、撮影の記録係ですが、細かい神経を使うので女性が担当する映画のスタッフです。記録係といっても、単に撮影の記録をすればいいというわけではなくて、監督に演出のアドバイスをすることもあり、いわばゴルフにおけるキャディーのような役割ともいえるでしょう。黒澤監督の映画と人物を知悉(ちしつ)しているスタッフとして、その貴重な記録が記されています。

『クロサワさーん!―黒沢明との素晴らしき日々』 (新潮文庫) (土屋嘉男著)
 俳優の土屋嘉男(よしお)さんは、俳優座にいたころ偶然黒澤監督に出会って『七人の侍』に出演することになったそうです。それ以降数多くの黒澤映画に出演しますが、個人的にも黒澤監督に大変気に入られ、実の息子のように可愛がられていたそうです。『七人の侍』の撮影の話題をはじめ面白いエピソードが満載です。

蝦蟇(がま)の油―自伝のようなもの』 (岩波現代文庫―文芸) (黒澤明著)
 これは黒澤監督自身による自伝です。でも、書かれているのは『羅生門』の監督をするまで。ここまで書いたら、今まで書いてきたことは自分を美化して醜い部分を避けてきたのではないかと考え、それ以上書けなくなったということです。ある意味潔癖な黒澤監督らしいといえますが、せめて最後のモノクロ作品の『赤ひげ』までは書いてほしかったというのが、私のみならず黒澤ファン共通の思いではないでしょうか。

『複眼の映像―私と黒澤明』 (文春文庫) (橋本忍著)
 このベストテンに入っている『生きる』『七人の侍』『羅生門』の脚本家が橋本忍さんです(ただし黒澤監督などとの共同執筆)。日本を代表するシナリオライターですが、この人の存在なしにはこれらの傑作は生まれなかったわけです。その橋本さんが、これらの脚本が完成するまでの過程などについて詳細に記しているのがこの本。これらの作品を愛する私としては大変興味深く読みましたが、黒澤映画研究の資料としても貴重なものといえましょう。

『黒澤明vs.ハリウッド―『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて』 (文春文庫)田草川(たそがわ) 弘著)
 映画『トラ・トラ・トラ!』は、太平洋戦争における日本の真珠湾攻撃が題材のハリウッド映画ですが、日本軍を描く部分の監督として黒澤監督が起用され、撮影に入りました。しかし、途中で黒澤監督はハリウッドの映画会社により解任されてしまったのです。この解任の理由については真相がはっきりせず、今まで様々な憶測が飛び()っていました。しかし、この事件について、最も真実に肉薄したというべき著作が本書です。ジャーナリストである著者の田草川氏が、なんでこの事件の内幕にこんなに詳しいのかと思ったら、それもそのはず、氏は若いころ、この映画の製作で黒澤監督の通訳を務め、また黒澤監督と個人的にも親しかったからです。また、当時のハリウッド側のプロデューサーとも旧知の仲なので、インタビューもスムーズに進んだわけです。関係者を傷つけたくないという配慮からか、ちょっと食い足りないと思われる部分もありますが、ハリウッド側、日本側の一方に肩入れすることなく、客観的に事実を分析しています。


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