SABOの八つの世界   

      シナリオ『アフロディーテ』 13
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○ 佐伯邸・寝室
  ベッドの上の箱のふたがそっとあけられ、中のドレスが現れる。そして佐伯の手がそれを取
  り出す。
  この寝室は三十畳以上の広さの豪華な部屋で、キングサイズのベッドが置いてある。佐伯は
  その上に腰をおろしていて、取り出したドレスを宙に掲げると、恋人を見るようないとおし
  げな眼差しでそれを見つめている。次に、立ちあがると、ドレスをベッドの上に広げてその
  脇に腰をおろし、そのドレスが美紀自信であるかのように話しかける。
佐伯「やっと会えた。そう、やっと会えたんだ。今まで何百回あなたを夢の中で探し求めたこと
 か。でも、夢の中のあなたは、会ってみると別人だったり、チラと見えたかと思うとすぐに消
 えてしまう。(ベッドの上のドレスに(ほお)ずりして)……でもその苦しみも、あながち無駄では
 なかったんだ。だって、きょう会えたのも、その何百回の積み重ねの結果かもしれないんだか
 ら……。信じがたいことだけど、この二十年間あなたも僕と同じ時間を生きてきたんだね。そ
 れなのに、その間をまたたく間に飛び越えてきたみたいに、若々しく美しい。あなたは時間を
 も超越してるのか。(上体を起こしてあたりを見回し)……この屋敷を見てください。それに
 あの会社、五つの別荘。金は一生かかっても、とても使いきれない。全くくだらない。こんな
 ものはあなたの爪の先の価値もない。私にとって幸福のすべては、あなたの輝く目、屈託のな
 い明るい笑顔、その高く澄んだ声……。(ドレスを胸に抱きしめる)でも、きょう会えたあな
 たは、また(はる)か遠くへ行ってしまった。私にとってあなたは女神でも、あなたにとって私はた
 だの他人。二人の間はわずか十キロ足らずしか離れてないのに、その距離は無限にも等しい
 ……こんなに愛しているのに……こんなに愛しているのに……(感きわまってドレスに顏をうず
 める)」
  ドアをノックする音。
  佐伯、ギクッとして顏をドレスから離すと、ドアの方を振り向く。
  ドアの向こうで執事の声がする。
執事の声「旦那様、矢吹様がお見舞いにいらしてますが」
佐伯「ちょっと待つように言ってくれ」
執事の声「はい」
  佐伯、ドレスを丁寧にたたむと、箱にしまう。
  が、ドアの向こうで矢吹と執事が言い合うのが聞こえ、ドアが開きかける。
執事の声「いえ、どうかお待ちください」
矢吹の声「そんなもったいぶることはないだろう。僕なんだから」
  佐伯、あわてて箱をベッドの布団の下に隠す。
  矢吹が入ってくる。
矢吹「どうだい、気分は」
佐伯「相変わらず行儀がよくないな」
  矢吹、佐伯が普段着で立っているので、
矢吹「なんだ、寝てたんじゃないのか」
佐伯「別にたいしたことはない。もうなんでもないんだ」
  矢吹、椅子へ歩き、腰かけながら、
矢吹「突然消えてしまって、運転手が青くなってたぞ。かわいそうに」
佐伯「だから電話で話しただろ。車の中で急に気分が悪くなった。そして近くの薬屋に駆け込ん
 だのさ」
矢吹「だからって、いつまでも車に戻らないってのはおかしいじゃないか」
佐伯「矢吹、君は僕を見舞いに来たのか、それともなおさら気分を悪くしに来たのか」
矢吹「(ため息をつき)わかったよ」
  ドアをノックする音に続いて執事の声。
 「旦那様、星様からお電話ですが」
佐伯「うん」
  佐伯、出ていく。
  矢吹、伸びをすると、このだだっ広い寝室を感心したように見回す。そして布団の(ふく)らみに
  目を止め、なんだろうという顏をする。立ちあがるとベッドへ行き、布団をめくる。そこに
  現れた箱に怪訝そうな顏をし、佐伯が出ていった方と見比べる。次に箱のふたをあけ、中に
  入っているドレスを見て妙な顏をする。そのドレスを取り出すと、狐につままれたような表
  情でドアの方と交互に見ている。

○ 寝室の前の廊下
  佐伯、やって来て寝室に入る。

○ 寝室
  矢吹はすでにドレスを元どおりに戻したらしい。ただ、先ほどとは別の場所にある椅子にか
  けているので、佐伯はやや変な顏をする。(その場所の方が佐伯とベッドを見比べるのに都
  合がいい)
  佐伯、先ほど矢吹がかけていた椅子に腰かけながら、
佐伯「星の奴、株の買い占めの期限を十日後にしてくれないかって言ってきた。だから問題外だ
 って答えておいた」
矢吹「ふむ。ところできょう、実に珍しい発見をしたよ」
佐伯「ん?」
矢吹「佐伯不動産の社長っていうのは、女装の趣味があるらしい」
  佐伯、一瞬その意味がわからず、変な顏をする。が、ハッとすると、驚いてベッドを見る。
矢吹「それとも女でもできたのか……これはもっと有り得ないことだな」
  佐伯、ムッとすると立ちあがり、ベッドへ行くと布団をめくって箱をベッドの下へ入れる。
佐伯「人の持物を勝手にのぞくってのは、いい趣味じゃないな」
矢吹「ああ。しかし女物の服をベッドに隠しておくなんていうのも、まともな趣味とは思えん」
  佐伯、再びムッとして矢吹を(にら)むが、何か考えると、
佐伯「これはただのドレスじゃないんだ」
矢吹「(変な顏をして)ただのドレスじゃないって?」
佐伯「誰がこれを作ったと思う」
矢吹「?」
  佐伯、今度は逆にベッドの下から箱を取り出すと、ベッドの上に置く。そしてそこに腰をお
  ろすと、ドレスと取り出し、目を輝かせてそれを見つめる。
佐伯「実にすばらしいドレスじゃないか。見ているだけでうっとりする」
  矢吹、立ちあがると、変な顏をしてそのドレスと佐伯の顏を見比べる。
矢吹「……別にごく平凡なデザインにしか見えないが……。誰が作ったんだ」
佐伯「彼女さ」
矢吹「彼女?」
佐伯「ああ」
矢吹「彼女って?」
佐伯「僕が彼女って言うのは、この世に二人はいない」
  矢吹、怪訝な顔が驚きの表情に変わり、
矢吹「……じゃ……まさか、あの……美紀……菅野美紀か」
佐伯「……原田美紀さ」
矢吹「……会ったのか」
佐伯「ああ……偶然……いや、運命かな」
矢吹「(思いつき)……それで車から突然消えたんだな」
佐伯「ソロン(まち)で婦人服の店をやってる。これは彼女がデザインして、彼女が作ったんだ」
  矢吹、感慨深げにドレスに近づくと、触れようとする。
  が、佐伯はドレスを持っている手を引いて触らせない。
  変な顏をする矢吹。
  佐伯、ドレスをたたみ始める。
矢吹「……すぐに彼女だってわかったか」
佐伯「君が考えるほど変わっちゃいないよ。……(ドレスをたたんでいる手を一瞬止め)でも、
 息子が二人いる。上は高校生。下の方も多分そうだろう。学校から帰るところで出会った」
  佐伯、ドレスを箱にしまうと、ふたをする。
矢吹「……で、これからどうするつもりだ」
佐伯「どうするつもりって?」
矢吹「つまりその……彼女のことさ」
佐伯「(自嘲ぎみに)いったい僕に何ができるっていうんだ」
  佐伯、箱を抱えて立ちあがると、矢吹に背を向け、つぶやくように、
佐伯「……いったい何ができるっていうんだ」
矢吹「……」
                                  (O・L)

○ 美紀の店
  洋服かけにかかっている商品のドレス。そのうちの二着を、美紀が外して両手に持ち、見比
  べる。
  近くに女店員がいる。
美紀「ねえ、きみちゃん、そろそろ春物をウインドーに出そうと思うんだけど、どっちがいいと思う?」
  女店員、美紀に近づくと、ドレスと見比べ、
女店員「そうですね……(一方のドレスをつかみ)こっちの方が華やかでいいですね。なんか春
 らしいパッと明るい感じで」
美紀「うん……そうね」
  ドアのあくチンという音がしたので、二人、その方を見る。
  佐伯が立っている。何か緊張した面持(おもも)ちである。
  美紀、再び来た佐伯に、やや意外な顏をするが、すぐに微笑する。
美紀「……あ、この間はどうも」
佐伯「……あの……今、お忙しいでしょうか」
美紀「……いえ……別に……」
佐伯「実はその……ちょっと折入ってお話ししたいことがあるんですが……」
美紀「……私にですか」
佐伯「はい」
美紀「(ややとまどって)はあ……あの、どうぞおかけください」
  と椅子を示す。
  佐伯、その方へ行く。
美紀「(女店員に)きみちゃん、紅茶をお願い」
女店員「はい」
  と奥へ行こうとする。
  が、佐伯、あわてて、
佐伯「いえ、あの……けっこうです。そんなに時間はかかりませんから」
美紀「はあ……」
  佐伯、腰をおろす。
  美紀もテーブルを挟んで前に腰かける。
  しかし、佐伯はもじもじしていて、なかなか話を切り出せないでいる。
美紀「あの……何でしょうか」
佐伯「……実はその……こんなことを言うのは全く非常識で、というよりむしろ気違いじみたこ
 とで、ご迷惑でしょうけど、しかしこの四日間考え続けた結果、どうしてもお話ししなくては
 ならないという結論に達したのです」
美紀「(怪訝そうに)……はあ」
佐伯「……つまりその……お話というのは……いや、その……私の言いたいことは……つまり……」
  ドアがあき、五十がらみの女の客が入ってくる。
客 「こんにちは」
美紀「(客に)あ、どうも……(佐伯に)ちょっとすいません」
  と立ちあがり、客の方へ行く。
  美紀と客の会話の間、佐伯は険しい表情で宙を見つめている。
客 「ねえ、原田さん、お願い」
  と言いながらカウンターに近づき、持ってきた袋からスカートを取り出す。
  (演出では、これ以降は客は写さず、その声が佐伯と美紀にかぶさる)
客 「これ去年こちらで買ったのだけど、ウエストを詰めてもらえないかしら」
美紀「ウエストですか」
客 「ええ、そう。ねえ、知ってる? 今評判の『節食しないでやせられる本』ていうの」
美紀「さあ……ちょっと……」
客 「そう……。ま、原田さんはスマートだから、そんなこと気にしなくていいものね、うらや
 ましいわ」
美紀「(微笑して)いえ……」
客 「で、その本の通りにやったら、実際体重が減ったのよ、七キロも。でもそのために、持っ
 てる服がみんなユルユルになっちゃったっていうわけ」
美紀「まあ、大損害ですね」
客 「そうなのよ。だから直せる服はできるだけ直したいんだけど」
  美紀、そのスカートを手に取り、
美紀「何センチお詰めしましょうか」
客 「四・五センチにして」
美紀「はい、四・五センチですね」
客 「木曜のパーティーに着ていきたいんだけど、間に合うかしら」
美紀「はい、大丈夫です」
客 「そう、じゃ、お願いね」
美紀「はい、じゃ、お預かりしときます」
  客、出入口へ向かう。
客 「じゃ、よろしく」
美紀「はい、どうもありがとうございました」
  客、外へ出ていく。
  美紀、女店員にスカートを差し出し、
美紀「きみちゃん、これ奥へ持ってっといて」
女店員「はい」
  とそれを受取り、奥へ行く。
  美紀、再び佐伯の所へやって来る。
  しかし、美紀と客との会話が、そこの雰囲気を愛の告白にはなおさら場違いのものにしている。
美紀「どうもお待ちどうさま」
  と腰をおろす。
美紀「……で、何でしょうか」
佐伯「……つまりその……私が言いたいのは……つまり二十年前のあのとき……私は……二十年
 前に……」
  女店員が奥から戻ってくる。
美紀「……二十年前、何ですか」
佐伯「二十年前のあのとき、私は……あなたを愛してた」
  美紀、一瞬驚くが、単に昔のことだと思い、微笑する。
美紀「はあ……」
佐伯「……今でもその気持は変わらない」
美紀「(微笑が消える)……」
  女店員、驚いて見つめている。
佐伯「この二十年の間、一日としてあなたを想わなかった日はない」
  美紀、唖然として、しばらく言葉が出ないでいるが、
美紀「……そんな……信じられません」
佐伯「……信じなくてもいい(声を詰まらせ)でも、事実だ」
  佐伯、何か考えると、上着の内ポケットからシガレットケースを取り出す。そしてそのふた
  をあけ、中の二十年前の美紀の写真を見せる。しかし、その手が震えているので、シガレッ
  トケースはテーブルに当たり、カタカタ音をたてる。
  美紀、愕然として、その写真と佐伯の顏を交互に見る。
  佐伯、目に涙を浮かべ、必死に美紀を見つめている。
  が、美紀、困ったように微笑すると、噛んで含めるように突き放す。
美紀「一体、私にどうしろとおっしゃるんです。私には優しい夫と二人の大きな子供がいます。
 決して裕福ではないし平凡ですけど、でも幸福です」
  閉じられるシガレットケース。
  ガックリとうなだれる佐伯。
  美紀、どうしていいかわからず、呆然として佐伯を見ている。
  佐伯、うつむいたまま、やっと聞き取れるほどの声でボソボソと話しだす。
佐伯「……いや、どうしようもないことはわかっていたんです。どうしようもないということは
 ……。ただ、私はこの二十年の間……二十年の間……。いや、もういいんです、ご迷惑をおか
 けしました」
  佐伯、立ちあがろうとして椅子を引く。
美紀「いえ……私、突然こんなことを聞かされてびっくりしてしまって……。何てお答えしたら
 よいか……」
佐伯「もうこんなことは忘れてください。私は帰ります。(ヨロヨロと立ちあがる)……もう行
 きます……二度と来ません……もう一生……」
  そう言ってドアの方へ向かう。
  美紀も立ちあがる。
  重い足どりで出ていく佐伯。
  それを呆然と見送っていた美紀、そのまま考えこむ。そして、やはり呆然として立っている
  女店員とチラと顏を合わせる。
  しかし、ややきまり悪そうに目をそらすと、再び考えこむ。

○ 佐伯不動産・社長秘書室
  矢吹が入ってくる。そして机の前の秘書(男)に、
矢吹「社長、いる?」
秘書「あの、今誰もお通ししないようにって言われてますが」
矢吹「(変な顏をして)ん?」
  秘書、社長室の方をチラと見て、小声で、
秘書「あの……ちょっと様子がおかしかったんですけど……」
  矢吹、さらに変な顏をすると、社長室のドアに静かに近づく。
秘書「(呼び止め)あの……」
  しかし、矢吹、社長室のドアをそっとあける。

○ 同・社長室
  少しあいたドアの間から矢吹が顏を見せ、中をのぞく。佐伯のすすり泣く声が聞こえる(し
  かし中は見せない)。矢吹、顏をしかめて見つめているが、やがてまたそっとドアを閉める。
                                  (O・L)


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