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      八道州・七新都市建設の提言 4
       第三章 「日本のラスベガス」と「日本のハリウッド」-
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このページの目次
 日本のラスベガス
 日本のハリウッド
 美幕市の構造

日本のラスベガス
 ラスベガスと聞いて、カジノのイメージしか思い浮かばない人も多いかもしれない。しかし、現在のラスベガスはレジャーランドなども作られ、家族が全員で楽しめるような総合的な観光都市に変貌している。そして、ここに世界中から訪れる観光客は、近いうちに年間五千万人に達するという〔現在、ラスベガスの年間の観光客は約四千万人である〕。しかし、この都市がここまで発展したのは、カジノがその発端(ほったん)であったことは間違いない。また、現在でもそれによる収入がネバダ州の財政を(うるお)していることも事実である。日本では現在カジノは認められていないが、北海道や四国など、企業進出も難しく、また観光客を大幅に増やす特効薬も見つけにくい州では、国はカジノを解禁してもいいのではないだろうか。それが州の経済を発展させる起爆剤となる可能性も充分にあるからである。
 ラスベガス ラスベガス
           ネバダ州の砂漠の中に建設されたエンターテインメント都市、ラスベガス

 それに、現在、競輪・競馬・競艇などのギャンブルは公然と行われているのに、カジノは禁止するという根拠は乏しい。私は、個人的にはギャンブルやパチンコなどには全く興味がないが、私が今まで出会った人たちの中には、競馬などを生きがいにしている人が少なくない。ギャンブルは、節度を守って行うかぎり娯楽として許容されるべきだといえよう。また、カジノ解禁により、暴力団などが行っている違法賭博を(すた)れさせ、結果的に暴力団の資金源を減じさせる効果もあると思う。

 ただ、世の中にはギャンブルをすると熱中して「節度」を守れない連中がいることも事実だし、いわゆるギャンブル依存症に陥る人の問題もでてくる。そこで、それによりカジノの収入を多少減少させることになるかもしれないが、会員制を導入するのが妥当ではないかと思う。そうすれば、未成年者や学生などがカジノに入ることを完全に防げるし、金融機関のブラックリストに載っているような人物も排除することができるだろう。また、会員の家族から「本人がカジノに熱中して、家に生活費も入れてくれない」などと苦情が来た場合などは、会員を除名すればいい。そうすれば社会における弊害(へいがい)は、競馬・競輪などはもちろん、いまや「町中のギャンブル場」と化したパチンコよりはるかに少なくなると思う。ただ、外国人観光客の場合は、いちいち会員になってもらうわけにもいかない。パスポートを提示すれば入れるというようにすべきだろう。

 次に、「日本のラスベガス」を建設する具体的な場所について述べよう。これについて検討すると、多くの人は東京都の石原知事が提言しているいわゆる「お台場カジノ構想」のことを思い出すと思う。確かに、東京都知事としては、このような施設を建設したい願望を持つことは理解できる。しかし、日本全体の利益ということを考えれば、東京都にカジノを建設するというのは絶対にやってはいけないことなのである。仮に「お台場カジノ」が実現したとしよう。するとほかの道府県はどう思うだろうか。当然「日本で最も豊かな東京都にカジノを認めたのだから、自分たちの自治体にも認めてほしい」と主張するに決まっている。すると四十七都道府県に一カ所ずつカジノが建設されてしまうということになりかねない。すると過当競争になり、多くのカジノが赤字になったり、わずかの利益しかあげられないということになるだろう。また、カジノが多くできすぎたことにより様々な社会的弊害が出てくることも予想される。したがって、カジノの建設は北海道と四国の二カ所のみ、それも道州制の導入を条件にして建設を認めるべきである。(そのほかの問題として、東京都にカジノを建設する場合、地価が高く広大な土地に欠けるため、かなり小規模のものにならざるをえないということがある。たとえば、ラスベガスのカジノが、ネバダ州の砂漠の中ではなくてニューヨークに建設されたらどうなったかということを考えてもらいたい)

 では、まず北海道ではこの新都市をどこに建設するのが妥当か検討してみよう。北海道では、新千歳(しんちとせ)空港周辺がかつて首都機能を誘致していたが、国会等移転審議会の第一次候補地の選定から早々と外れてしまった。しかし地元の人たちも、おそらく本当に首都機能が北海道にやってきたら奇跡のようなものだと考えていたのではないだろうか。したがって、移転地として落選しても、それなら今度は別の都市を誘致しよう、というように頭の切替えは早いと思う。実際、新千歳空港は北海道の玄関口であり、札幌などに来た観光客がその行き帰りにちょっとカジノに寄るという可能性からしても、「日本のラスベガス」の建設地として理想的といえよう。ただ、地元の人たちの中には、「企業が来るのは歓迎だが、ギャンブル場は御免だ」と言う人もいないとはいえない。私の提案する七つの新都市は、地元の人たちが誘致をしている、少なくとも反対はしていないということが建設の前提条件である。したがって、その場合は別の場所を探すことになるだろう。

 しかし、新千歳空港から車で二、三十分南下すると、苫小牧(とまこまい)市の東部に建設計画が挫折した巨大工業基地の用地があり、ここを第二の建設候補地としてあげることができる。ここでは新首都が建設されてもまだ余裕がある広大な土地が、ほとんど工場が建設されず原野のまま放置されている。この土地を開発していた第三セクターは巨額の累積債務を抱えて倒産したが、その事業を継承した新たな第三セクターも土地が売れずに困っているというのが現状である。しかし、交通の便のよさ、豊富な水、安い地価という好条件からして、「日本のラスベガス」の建設地としては申し分ない。したがって、もしここに「日本のラスベガス」を建設できれば、北海道最大のお荷物が金の卵を生む(にわとり)に変身するということになる。〔現在では、ここにはある程度工場も建設され、状況は改善されてきたが、まだ広大な土地が残されている。詳しくは(株)苫東(とまとう)のウェブサイトを参照されたい。総合的にみれば、新千歳空港周辺よりこちらのほうが新都市建設の適地といえるだろう〕

 ところで、北海道は冬季には長期にわたって雪で覆われる寒冷な地域であり、ここに観光都市を建設するのは問題があると言う人もいるかもしれない。しかし様々な工夫をすることにより、そうした問題はクリアできるのではないだろうか。たとえば、各ビルをトンネルでつないで冬季はその中を暖房するとか、あるいはドーム球場のような巨大なドームを建設して、その中にレジャーランドを入れるというようなことも考えられる。近くにスキー場を作り「昼はスキー、夜はカジノ」といった遊び方を提案するのも一法だろう。カナダの寒冷地には年間二千万人以上の客を集める巨大なショッピングモールがあるが、こうしたものも建設の参考になると思う。

 次に、四国について検討してみる。道州制導入後の四国の経済を活性化するには、総人口四百二十万人という人口の少なさや不利な地理的条件などからして、やはり「日本のラスベガス」を建設する以外方法はないと思う。しかし、このこと以外にも、じつは四国にはこの新都市を建設しなければならない差し迫った事情があるのである。それは本州四国連絡橋である。現在本四連絡橋は、児島・坂出ルート、神戸・鳴門(なると)ルート、そして尾道(おのみち)今治(いまばり)ルートの三ルートが完成している。かつて三つのルートの本四連絡橋が建設されると知ったとき、私はそんなものは採算が合うわけがない、ルートは一つにすべきだと考えていたが、やはりそうなってしまった。すなわち、きわめてズサンな工事見積もりなどにより総工費が予定を大幅にオーバーし、また橋を通行する車の量が予想をはるかに下回ってしまったため、連絡橋の経営は大幅な赤字に陥ってしまったのである。
             本四連絡橋
         巨費を投じて建設された本四連絡橋だが、車の通行量が少なく国のお荷物になっている。

 〔この三つの連絡橋を運営していた本州四国連絡橋公団は2005年に民営化されたが、民営化されたからといって橋を通行する車が増えるわけではない〕

 では、車の通行量を飛躍的に増やすにはどうしたらよいだろうか。その最も効果的な方法は、やはり「日本のラスベガス」の建設であろう。というのも、この都市にやってくる観光客の多くは、その行き帰りに当然これらの橋を利用するからである。

 では、新都市は四国のどこに建設するのが望ましいだろうか。関西方面からの観光客を多く呼ぶという観点からすれば、本四連絡橋の三つのルートのうち神戸・鳴門ルートか児島・坂出ルートに近い場所に建設するというのが妥当な考えだと思う。すなわち、徳島県か香川県が建設地としてふさわしいということになる。ただ、徳島平野は、真下を中央構造線という巨大な活断層が走っていて、しかも大地震の「要注意」活断層でもあるので、できれば避けたい。一方、香川県は年間降雨量が少なく、その結果として自然災害も少ないのはいいのだが、土地と水の確保に難点があるかもしれない。したがって、「日本のラスベガス」建設が実現したとしても、北海道のそれと比べると、結果的に、より小規模なものになる可能性が高いだろう。(水の確保のために、新しいダムの建設が必要になる可能性もある)

 また、「四国のラスベガス」の具体的プランの一つとして、本場アメリカのラスベガスのデッドコピーにするということも考えられる。「北海道のラスベガス」の場合、寒冷地であるため、スキー場やドーム型レジャーランドなどを併設した独自の構造にすることが要求される。しかし、香川県は、温暖で降雨量が少ないなど気候的にはラスベガスに近い。したがって、ラスベガスの街並みやカジノをそのまま再現するのも面白いのではないだろうか。実際、日本では、東京ディズニーランドのようにアメリカのテーマパークのデッドコピーで成功した例もあるし、長崎のハウステンボスのように外国の都市を再現した観光地も存在する。「四国のラスベガス」の場合、そこでギャンブルが楽しめるというだけでなく、ラスベガスへ実際に行った雰囲気も味わえるということになれば、二重の意味で多くの観光客を引き寄せることができよう。

 しかし、もちろん、単なるラスベガスのコピーにすぎないとしたら、欧米の観光客などは呼ぶことはできない。彼らを呼ぶためには、本場のラスベガスには存在しないような娯楽も提供する必要がある。たとえば、日本には「パチンコ」という独自のギャンブル文化があり、これを改良した新たなギャンブルを考案することなども一つの方法といえよう。

日本のハリウッド
 第二章の「新産業都市」の説明の中で、日本の官僚たちは政治における中央集権と同時に、大企業の本社を東京に集中させることにより、いわば経済的中央集権をも実現したと述べた。しかし、それだけではなく、さらに文化と情報発信における中央集権をも成功させたのである。

 たとえば、現在地方の出版社が県境を越えて書籍を販売する場合には、それを東京へ一度持ち込まなければならないという奇妙なシステムになっている。したがって余分な運送コストを削減するためには、出版社は東京かその近辺になければならない。その結果、ほとんどの出版社は東京に集中してしまった。特に全国向けの雑誌においては、九七%が東京で発行されるという恐るべき状況になったのである。さらに放送会社においても、全国放送のテレビ番組のほとんどは東京のキー局のみが制作できるようにした。映画の撮影所も、時代劇を撮影する京都の東映撮影所をのぞけば東京圏に集中し、その結果、俳優などのタレントも東京かその近辺に住まないとまともに仕事ができない状況になった。そして、テレビのバラエティー番組やドラマでは、東京の情報ばかりが毎日全国に向かって発せられ、それをいやというほど見せられる全国の若者は、タレントなど憧れの人が暮らす憧れの都市東京へと集まってくる。その結果、さらに東京圏への人口の集中がひどくなるという際限のない東京一極集中の構造を作り出したのである。

 しかし、このような状態は、メディア自体や、その内部で働いている人たちにとっても、決して好ましいものではない。たとえば、東京で大地震が起きたとき、各メディア企業の社員やタレント、スタッフなどが生命や財産の危機に見舞われるのはもちろん、交通・電気などが長期にわたって麻痺した状況では、東京の放送局はまともな報道さえできないだろう(たとえば、停電時、各放送局は自家発電で何日間機能するだろうか)。また、以前述べたように、首都圏全体で起きる大地震の被害は、交通や電気などのインフラにおいては阪神大震災の千倍以上になると予想される。そうなるとテレビドラマやバラエティー番組の制作も長期にわたって不可能になるだろう。かといって、大阪などが東京に代わってこれらの番組を制作することも、現在の設備などから考えて無理である。また、映画業界においても、東京の映画撮影所は木造家屋の密集地にあるケースが多いので、大地震の際、焼失する危険性が高い。すなわち、現在のように、ほとんどすべてのメディアの情報発信機能が東京に集中しているというのは、国やメディア企業の危機管理という面から考えても最悪なのである。

 また、東京の過密も、メディア産業の活動においてマイナス要因といえよう。各メディア企業の社員が長時間通勤や狭い住居に苦しんでいるのは一般の企業と同様だが、都心で暮らしているタレントたちも、東京の交通渋滞には頭を痛めている。というのも、民放の本社のスタジオでは大半のバラエティー番組の収録はしているが、すべてのドラマとバラエティー番組の一部は郊外のスタジオや映画撮影所などが制作現場になっているからである。都心にある自宅やテレビスタジオと、横浜市の緑山スタジオ(TBS)や川崎市の生田スタジオ(日本テレビ)を交通渋滞時に行き来するのは大変だろう。

 さらに、東京の高い地価も、メディア産業のソフト制作において、不利な条件の一つである。テレビ番組制作プロダクションや芸能プロダクションなどが借りているオフィスの高い賃貸料、それに都内のスタジオの高額の使用料は、ソフト制作のコスト高の要因の一つとなっている。日本テレビは2003年に本社が東京・汐留(しおどめ)の旧国鉄貨物駅跡地に移転したが、この土地の落札価格は一坪当たり二千百万円余りとされている(新都市の地価が坪十万円とすれば、じつに二百倍以上である)。こうした土地に建てたビルのスタジオでバラエティー番組などを制作すれば、当然番組の制作コストは高騰する。現在、東京の地上波の放送会社は皆黒字経営なのでコスト意識が低いのかもしれないが、これからはBSデジタル放送の運営や地上波のデジタル化にかかる費用などで経営が苦しくなる可能性が少なくない。やはりスタジオを地価の安い所に建設して番組の制作コストを下げるということを本気で考えるべきだろう。
  日テレタワー  NHK放送センター
 土地は坪2100万円で購入したといわれる日テレタワー 1973年に完成したNHK放送センターは土地のみ売ることも可能

 また近年、CSデジタル放送に加えてBSデジタル放送も始まり、さらに地上波もデジタル化へ向かっていて、超多チャンネル時代が到来している。そしてこれらのチャンネルに番組を供給するためには、映画やスポーツなどのほかにオリジナルの番組を数多く制作する必要がでてくる。しかし、そうなると東京ではスタジオ不足が懸念されると同時に、CS放送の一時間番組で五十万円ともいわれる超低制作費では、東京のスタジオの高額の使用料は当然重荷になるだろう。したがって、地価の安い所のスタジオを借りたり、あるいはそうした場所にスタジオを建設するということが生き残りの条件になると思える。

 以上のような東京への異常なほどの文化と情報発信機能の集中、そしてそこでメディア産業が活動することで生じる多くの問題。これらのことを根本的に解決するには、その一部を東京から移転するということが必然的な結論となる。具体的にいえば、まず映画会社を移転し、それが所有する撮影所も移して、そこにテーマパークを併設(へいせつ)することも考えられる。放送会社とNHKは、東京・関東のローカル番組の制作部門は東京に残すとしても、本社機能と報道部門、それにタレントが出演するドラマとバラエティー番組の制作部門は移す。それに伴ってテレビ番組制作プロダクションのほとんどと芸能プロダクションも移転し、タレントや映画・テレビのスタッフも移住することになる。ついでに、レコード会社とそのスタジオも移転したほうがいいだろう。……すなわち、「日本のハリウッド」の建設である。

〔現在、東京の民放は、みな新社屋を建設したため、移転するには土地だけでなくこれらのビルも売却する必要がある。ただ、関東のローカル番組の制作は続け、一部は貸しスタジオにするとしても、スタジオ部分の多くはそのままでは売れない。するとそれらを事務所にリノベーションすることは果たして可能かという建築上の問題が出てくることは(いな)めない。ただし、NHK放送センターは、1973年の完成なので、建物の減価償却はかなり進んでいる。移転の際には、土地のみを売ることも可能だろう〕

 この都市は、日本の映像・音楽ソフト制作のメッカであると同時に、もう一つ重要な役割を担う。それは、この都市全体に多くの観光資源を配置して、年間三千万人以上の観光客を日本全国のみならず海外からも呼び寄せるアジアでも屈指の観光都市とすることである。

 そのためには、移転場所は風光明媚(ふうこうめいび)で気候は温暖なことが望ましい(このことは、映画やテレビドラマの制作においても重要である)。また、演劇などは依然として東京がメインとなるので、タレントが東京との間を行き来することは多いだろう。そして、時代劇を撮影する京都・太秦(うずまさ)の撮影所や、東京についで多くのテレビ番組を制作している大阪に行くことも少なくないだろうから、位置的にはその間にあることが望ましい。さらに、そこが首都機能を誘致してきた地域なら、新都市建設の条件が揃っているということだからなおさらいい。これらの条件を満たす場所として、以前は浜名湖周辺が望ましいと考えていたが、ここは大地震の際、津波の被害を受ける可能性がある。したがって、防災という観点も加えると、首都機能移転の有力候補地である岐阜・愛知地域が必然的に最有力候補地となるであろう。(ただし、岐阜・愛知地域は御嶽山(おんたけさん)が大噴火をした場合、降灰の被害が全くないとはいえない。したがって、岡山など別の地域も候補地として考えておく必要がある)

美幕市の構造
 「災害・事故・公害・犯罪がなく、清潔で美しく、公園や緑が豊富で、住宅は広くて快適。職住近接で、かつ便利で楽しく、文化の香りがする都市」

 私が理想と考える都市の条件を並べてみた。そして、そうしたことを考慮に入れ作成したのが、「日本のハリウッド」の構造図である。この都市で働くメディア関係の人たちが三万人とすれば、都市の総人口は二十万人程度になると考えられる。しかし、やがて観光関係を中心に人口は増え、三十万人か、それ以上になるのではないだろうか。総面積は四十平方キロ程度あれば理想的と考えている。中心にある二つの撮影所の大きさがそれぞれ東京ディズニーランドくらい、すなわち幅がほぼ一キロメートルということからすると、全体の面積はそんなにないのではないかと思われるかもしれない。しかし、将来住宅地などが外側に広がる可能性もあるし、周辺の地価の高騰を防ぐためには、都市の周囲の土地もある程度まとめて買収する必要がある。したがって、トータルではその程度の広さになると思われる。

 じつは、本論文の提案した四種類の都市のうち「日本のハリウッド」のアイデアに関しては、一九九〇年当時に筆者がすでに発表したものである。したがって、この構想においてはかなり具体的なものができているので、これからそれを要約して述べたいと思う。ところで私は、この都市に美幕(みまく)市という仮称を付けた。したがって、以下この「日本のハリウッド」のことをこの仮称で呼ぶことにする。ちなみに美幕の「美」というのは、都市景観の美しさをめざすという意図、それに芸術、すなわち美を創造する都市であるという意味が込められている。「幕」は映画の都ということから銀幕の「幕」であると同時に、「新しい時代の幕を開く都市」という意味も含めた。ついでにいえば、この都市の主な通りは、「黒澤通り」「溝口通り」「小津(おず)通り」など、著名な映画人の名前を付けるといいだろう。

             日本のハリウッドの構造

 では、この都市の構造について説明しよう。この都市の中心に位置し、ここのシンボルでもあるのが、AとBの二つのテーマパークを兼ねる撮影所である。たとえば、A撮影所は(きぬた)の東宝撮影所と東京メディアシティを移転したもの、B撮影所は調布の日活撮影所、大泉の東映撮影所などを売却して移転したものとしよう。撮影所を二つにまとめたのは、テーマパークが五つもあると入場者が分散してしまい、経営を成り立たせることが困難と考えたからである。この内部は、「外国映画ゾーン」「日本映画ゾーン」「屋内スタジオゾーン」の三つに分けられる。「外国映画ゾーン」では大阪のユニバーサルスタジオ・ジャパンのようにアメリカ映画をモチーフにしたアトラクションが行われる。ユニバーサル映画以外にもアトラクションにできるアメリカ映画は数多くあるので、独自のものを考えるといいだろう。「日本映画ゾーン」では日本映画の人気作品をモチーフにしたアトラクションや展示が行われるが、日本映画の現状では、その大半はアニメ作品とならざるをえないだろう。そして「屋内スタジオゾーン」は入場者が乗り物に乗って映画スタジオの内部を見学できるものである。

 ところで、現在、全国の数多くのテーマパークの建設計画が挫折していることもあり、このテーマパークの建設についても疑問視する人達もいるかもしれない。しかし、各映画会社がここに映画のテーマパークを建設することは、一般の企業がふつうのテーマパークを建設する場合より有利な点が多い。それは、主として次の三点である。一つは、各映画会社は東京とその周辺に撮影所を所有していて、その土地を売却することにより、新撮影所を建設する土地の借地料を国に支払うことができ、さらにその建設資金のかなりの部分を捻出(ねんしゅつ)することができるということである。二つ目は、ほかのテーマパークと異なり、新撮影所では映画製作による収入とテーマパークの入場者から得られる収入の二重の収入を得ることができるということである。三つ目は、新都市ではほかにも多くの観光資源が配置され、都市そのものも観光の対象になる。したがってそれらの相乗効果により、レジャーランドを兼ねた撮影所が単独で移転する場合よりもはるかに多くの入場者が見込まれるということである。

 とはいっても、テーマパークのアトラクションが魅力的でなければ、経営の成功はおぼつかないことは当然である。アトラクションがチャチだと、かつての鎌倉シネマワールドのように、最初は物珍しさから多くの客が入場しても、彼らはリピーターとはならずに、時が経るにしたがって客が激減してしまうということになってしまう。日本中の観光客にリピーターとなってもらい、さらに世界中から多くの観光客を呼ぶためには、日本の人気アニメやゲームなどをテーマにしたアトラクションを、ディズニーランドやUSJ並の巨費を投じて製作しなければならない。たとえば、『ドラえもん』をテーマにしたアトラクションを設けるとすれば、のび太の家のセットがあって、その中に色々な仕掛けがあるという程度ではだめで、客がそこにあるタイムマシンに乗って様々な時代を旅するというぐらいのスケールの大きさが求められるのである。

 考えてみれば、日本のアニメやゲームというのは、テーマパーク建設を考える場合、素材の宝庫ともいえよう。日本は、大型のテーマパーク建設において、ソフトの豊富さということでは、アメリカとともに最も恵まれた国ともいえるかもしれない。要は、その宝をどう生かすかということである。
             ハリウッドのユニバーサルスタジオ
      美幕市の撮影所も、ユニバーサルスタジオのように、世界中から多くの観光客を集めなければならない。

 ところで今、新都市の土地の借地料のことにふれたが、ここにビルや住宅を建設する企業や住民は、最初に借地料を三十年分まとめて支払うというのが原則となる(この方式はほかの新都市でも適用される)。ただ、その場合も、当然この都市における地区や建設される建物によって差が付けられる。たとえば、公共性の強い大学・学校・病院、それに広大な土地を要し、その建設に映画会社が巨額の資金を投入しなければならない二つの撮影所の用地などは、借地料は土地取得価格とほぼ同じに抑える。たとえば、土地の買収価格と造成費を合わせて坪十万円なら、坪十万円から十五万円程度が妥当だろう。しかし、住宅地は坪二十万から三十万円、事務所の用地は百万円、繁華街は百五十万円にする……といったようになる。そして三十年たつとこれらの土地を借りている企業や住民は再び借地料を支払わなければならないが、借地であるため固定資産税や相続税などは納める必要はない。したがって、東京の都心にビルを持っている企業などは、新都市に移転すれば、都心のビルの敷地の固定資産税より安い借地料で新都市の土地を利用できることになる。

 次に、撮影所の隣(図では下)の商業地区に注目してもらいたい。ここには、ホテル・デパート・映画館・劇場など各種商業施設とともに、ショッピングモールも設けられる。このショッピングモールは、この都市にふさわしく、いくつものタレントショップも入り、またその中の広場では、毎日テレビ番組の中継も行われる。

 撮影所の駐車場の右にある公園内には、美術館をいくつか建設する。とはいっても、日本中に美術館があふれる現在では、「常識的発想」により美術館などつくっても、とても有力な観光資源にはなりえないだろう。そこで私は、「超常識的発想」で特異な美術館を考えた。すなわち、そのうちの一つは壮大なレプリカにし、建物はアテネのパルテノン神殿を、それができた当時のままに建設する(当時パルテノンは彩色されていた)。そしてその内部は、バチカンのシスティーナ礼拝堂の内部を、ミケランジェロの『天地創造』や『最後の審判』とともにそのまま再現し、別の部屋の壁にはレオナルド・ダ・ビンチの 『最後の(ばん)(さん)』をそれが描かれた当時の美しい色彩で再生するのである。〔私がこの案を考えてから十年ほどたって、徳島県に大塚国際美術館という同じようなコンセプトの美術館が建設された。したがって、建物はともかく、内部は変更しなければならない〕

 さらにその近くには、やはり古代ギリシャ・ローマ的な建物を建設して、それを牧野邦夫美術館とする。牧野邦夫という名前を聞いたことがある人は少ないだろうが、「日本のミケランジェロ」とでもいうべき天才画家で、私は日本が生んだ最大の画家ではないかと思っている。この美術館ができることにより、彼も正当な評価を受けるようになるのではないだろうか。

 また、「日本のハリウッド」の中にある美術館ということから、「タレント美術館」を建設するのも面白いと思う。タレントの中には、石坂浩二氏、片岡鶴太郎氏、城戸真亜子氏、加山雄三氏、八代亜紀氏、工藤静香氏など、絵を描かせたらプロ級という人が少なくない。したがって、これらの人たちの作品を集めて展示すれば、多くの観光客の興味を引き付けることができるだろう。

 そして、これらの美術館の回りには、池を巡らす。彩色されたパルテノンが夜にライトアップされ、それが周囲の池に映った姿は、息を呑むような美しさだろう。その池の(ほとり)のオシャレな喫茶店やレストランは、この都市を舞台に撮影されるトレンディードラマにしばしば登場するようになると思われる。

 また、美術館の隣には、映画人や放送技術者などを育成する映画大学や専門学校を設立するか、または既存の大学等を誘致する。音楽などを含む総合的な芸術大学にしてもいいだろう。そしてこの都市に暮らす多くのメディア関係者は、講師としてこの大学に呼ばれると思う。また、学生たちは撮影所などでアルバイトを行い、そこで実際の映画づくりを学べるだろうし、なかにはスタッフとのコネもできて就職が決まる者も出てくると思う。

 映画というと斜陽の代名詞のように言われるのが常だが、私は決してそのように考えてはいない。映画産業が落ち目になったのは、映画館の経営が拙劣(せつれつ)だったことと、映画界が独創性を持った人材の育成を(おこた)ったため、才能ある人間が皆アニメやゲームソフトなどの業界へ流れ込んでしまったことによる。この大学による人材の育成をはじめ映画産業の大改革を行えば、映画界が再び黄金時代を迎えることも夢ではないだろう。〔その後、シネコンの普及などにより日本の映画産業はある程度勢いを取り戻したが、まだまだ“黄金時代”にはほど遠い〕

 次に、美幕市の住宅に関して述べると、この都市では徒歩通勤が原則のため、住居の集中化をはかる必要があり、その結果住宅はほとんどがマンションとなっている(ただし、東京のマンションと比べると、一戸あたりの広さは倍程度ある)。ただ、図の左上にある高級住宅地は例外で、ハリウッドのビバリーヒルズに匹敵するような邸宅街となる。ここにはスターや著名な監督、それに映画会社や芸能プロの経営者などが暮らすことになるわけである。

 そして美幕市は、市内における映画やテレビドラマなどのロケを奨励し、市内のいたるところで撮影風景が見られることだろう。するとテレビに毎日現れる美幕の観光名所を一目見ようと全国の人々は殺到し、また「美幕で暮らす」ということが若者の憧れになる。その結果、この都市は、近畿州に建設される新首都以上に「二十一世紀の日本の顔」となるに違いない。

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