SABOの八つの世界   

      シナリオ『アフロディーテ』 16
風水の真実ザ・有名人占星術映画・Jポップエッセイ私の映画企画私のマニフェスト八道州・七新都市構想ここがおかしい 日本人類の歴史を変える新哲学

HOME(トップページ)

メッセージ

私のプロフィール

メール・コピー等について

サイトマップ

SABOの東京名所写真

  『アフロディーテ』に戻る

○ 佐伯邸・書斎の窓(夜……ラストシーンまで)
  降り続く雪。木の枝には、もうかなり積もっている。カメラ、窓に近づくと、机の前にかけ
  ている佐伯と立っている執事とが見えてくる。

○ 同・書斎
  佐伯と執事。
佐伯「もう信頼できる人間はおまえしかいない」
執事「はあ、旦那様のご命令は、たとえこの命に代えてでも守ります」
  佐伯、執事に封筒を差し出し、
佐伯「この中に小切手が入ってる。奴に渡す第二回分だ。これを九時半に例の場所で手渡すよう
 に。(置時計を見て)あと十分もしたら出かけるといい。絶対に僕のことは知られないように
 するんだぞ。淡口ファミリーにでも知られたら、取り返しのつかないことになるからな」
執事「(封筒を受取り)はい、それはもう存じております」
  ドアをノックする音。
佐伯「何だ」
  外で下男の声がする。
 「矢吹様がいらしてますが」
佐伯「ふむ、今行く」
  佐伯、立ちあがると出ていく。

○ 同・二階の廊下
  居間の方へ向かう佐伯。

○ 同・居間
  二階まで吹き抜けになっているこの部屋に面した二階の廊下に佐伯が現れ、下に立っている
  矢吹を見下ろす。
佐伯「やあ、矢吹君」
  矢吹、佐伯を見あげる。
佐伯「どうだね。どうやらようやく観念したようだな」
矢吹「いやあ、観念しなければならないのは君のほうだ」
佐伯「何?」
矢吹「お気の毒だが、君の優雅な計画はすべて御破算だ。君の負けさ。君はもう会社に対して何
 の権限もない。自分の財産も処分できない。というのも、君は禁治産者の宣告を受けたからだ」
  とポケットから封筒を取り出し、佐伯に見せる。
  佐伯、顔をしかめると、奥の階段の方へ消える。
  矢吹、ため息をつくと、佐伯を待つ。
  玄関の方でチャイムの音がする。
  佐伯、一階に現れる。そして足早に矢吹に近づくと、その手から封筒をひったくるようにし
  て取り、中の文書を取り出して険しい表情で読む。
矢吹「悪く思わんでくれ、これも君のためなんだ」
  佐伯、いらだたしげに文書をたたむと、
佐伯「ふん、こんな小細工をしやがって。あのやぶ医者をいくらで買収した?」
矢吹「何を言ってもだめさ。もう取引先にも知らせてある」
佐伯「こんな無法がまかり通ってたまるか。出るとこに出て白黒つけてやる」
  と文書と封筒をテーブルの上に叩きつける。
矢吹「佐伯、僕は今すぐ君を病院に収容することだってできるんだぞ」
  それを聞き、佐伯、驚いたように矢吹を見つめる。が、
 「旦那様」
  という下男の声に、入口の方に目をやる。
  下男、手に封筒を持って佐伯に近づきながら、
下男「チャイムが鳴ったので出てみますと、誰もいなくて、こんなものが置いてありました」
  佐伯、変な顏をしてそれを受け取ると、裏返してみる。が、何も書いてない。
  それを怪訝そうに見つめている矢吹。
  下男、出ていく。
  佐伯、封を切ると、中から手紙と一枚のカラー写真を取り出す。
  そして、その写真を見た佐伯の顔が突然青ざめ、引きつる。
  それは一人の女性が、どこかの部屋の床に目を閉じて毛布にくるまり横たわっているもので
  ある。そしてその女性は、まぎれもなく美紀だ。
矢吹「どうしたんだ」
  佐伯、手をブルブル震わせながら、というよりむしろ体全体を震わせながら、その手紙を読む。
  そして、佐伯が読み終わって放心したような目で宙を見つめると、その手紙をのぞきこんで
  いた矢吹が、佐伯の手から手紙と写真を取ろうとする。
  が、佐伯は写真のほうは渡さずに、そのまま椅子に腰をおろすと、それを穴があくほど見つ
  めつづけている。
  矢吹、手紙を声に出して読む。その間、写真を見つめている佐伯は、やがて何かに気づいた
  ような、変な顏をする。
矢吹「あなたの女神を預かる。写真では麻酔で眠ってますが、丁重に扱っているので心配はご無
 用。あなたのすべきことはただ一つ。あした中に、ホテルニューパエトーンのすべての持ち株
 を、一株十テミスで前の社長に譲り渡すこと。そうすれば、明後日には彼女は無事帰します。
 今、彼女の夫は出張中。二人の息子は、寮に入ってるのと、留学のための視察旅行に行ってる
 のとで、同じくいない。しかも、きょう、あすは店は休業している。つまり、彼女がいなくな
 ったのを知ってる人間は、一人もいないわけです。したがって明後日彼女が戻っても、誰も証
 人がいないから警察も本気で相手にはしないでしょう。そして、いつのまにかホテルニューパ
 エトーンの経営者は元に戻っているというわけです。これは実に(いき)な作戦だとは思いませんか。
 ところで、賢明なあなたのことだから、警察に知らせるような馬鹿なまねはしないでしょう。
 何よりも彼女の身の安全を願ってるでしょうから……(変な顏をして)哲学者の成りそこない
 より芸術家の成りそこないへ」
  矢吹、いらだたしげに、
 「畜生、淡口の奴め」
  と言って何か考え、奥の廊下の方へ行こうとする。
  それに気づいた佐伯、驚いたように立ちあがり、
佐伯「おい、どうするんだ」
矢吹「決まってるだろ、警察に連絡するのさ」
佐伯「(動揺して)待てよ」
  と写真をテーブルに置くと矢吹に近づき、
佐伯「それじゃ、彼女が危ない」
矢吹「しかし、奴の言う通りにするわけにはいかないだろう。あのホテルは苦労して乗っ取った
 んだからな。それに彼女だって、奴の言うように無事戻されるかわかったもんじゃない」
佐伯「いや、奴はそう言うからには約束を守る。それに警察の中には淡口のスパイがいるという
 ことだ。知らせるわけにはいかない」
矢吹「いや、これは奴らをつぶすチャンスなんだ。警察ならきっとうまくやってくれる。こうい
 う場合、それが最良の方法さ」
  と奥へ行こうとする。
  佐伯、その矢吹の腕をつかみ、
佐伯「いや、そんなことはさせない。僕はあしたホテルニューパエトーンの株を譲り渡す」
矢吹「……しかし君にはその権限はない。君は禁治産者だ」
  それを聞き佐伯、愕然(がくぜん)として、思わず矢吹の腕をつかんでいた手を離す。
  すると矢吹、再び廊下へ向かう。
  佐伯、あわててその前に立ちはだかり、
佐伯「待てよ。今そんなことを言ってる場合じゃないだろう。この問題は一時棚あげだ。今は何
 としても彼女を救い出すことさ」
矢吹「ああ。だからそのために警察に連絡する」
  と行こうとする。
  すると佐伯、突然大声で、
 「どうしてもわからないのか」
  と叫んで矢吹を突き飛ばし、サイドボードの上に置いてあるガラス製の花瓶を取ると高く掲
  げ、今にも矢吹の上に叩きつけるような格好をする。
  しかし矢吹、冷静に、
矢吹「僕を打ちのめしても、君の思い通りにはならないよ」
  佐伯、その言葉を聞くと(ひる)み、花瓶を高く掲げたまま動けなくなる。そして頭上の花瓶に目
  をやると、まるで初めてそれを持っている自分に気づいたかのような顏をし、あたりに意識
  のはっきりしないような視線を泳がせながら両手を下ろす。そして、そのまま体の力が抜け
  てしまったように、ガックリと床に膝を付いてしまう。
佐伯「(今までと打って変わって弱々しい声で)……矢吹……彼女がさらわれたのは僕のせいだ。
 だから、どうしても無事に救い出さなければならない。彼女にもしものことがあったら、死ん
 でも死に切れない。……おそらく霊魂は地上をさまよい、永遠に(もだ)え苦しみ続けるだろう。も
 し彼女が救えるのなら、喜んで地獄へ()ちよう。だから頼む、僕の言う通りにしてくれ。……
 (再び激情的な調子になり)もしそれがいやなら、その前にこの体を引き裂け」
  と激情にまかせて花瓶を叩き割る。そしてガラス片で手を切り、血が流れる。が、佐伯、そ
  れに頓着(とんちゃく)せず、両手を組むと、矢吹を(おが)むようにする。
  矢吹、さすがに感動と哀れみで目に涙を浮かべている。そして自分も同じように床に(ひざ)を付
  くと、組んでいる佐伯の両手を離す。
矢吹「どうして……どうしてそこまでしなくちゃならないんだ……ん?……いったい彼女が何を
 してくれたっていうんだ」
  もう二人とも泣いている。
  矢吹、両手で佐伯の頭を(はさ)むと、その目を見つめ、
矢吹「かわいそうな男だ……会ったばかりに……会ってしまったばかりに」
  矢吹、自分の額を佐伯の額に付け、
矢吹「……わかったよ、言う通りにしよう。……もう心配するな」
  と再び自分の顏を離す。
  泣いている佐伯の顔がほころぶ。すると矢吹も微笑し、
矢吹「……いったい何ていう男だよ……とても信じられんよ」
  と笑いだす。それにつられて佐伯も笑い、二人とも泣き笑いの状態になる。
  が、佐伯、次第に笑いが消え、真剣な顔になる。何かを思いついたような表情である。
  それを見て、矢吹も笑いが引っ込む。
  佐伯、しきりに何か考えながらおもむろに立ちあがると、上着の(そで)で涙を(ぬぐ)い、テーブルの
  方へ行く。そして、その上の写真を手に取る。
  同じく立ちあがった矢吹、その佐伯を怪訝そうに見ながらも、ハンカチで涙と、手に付いた
  佐伯の血を()く。
  佐伯、写真を凝視しながら、
佐伯「……矢吹、前にこの場所を見たことがないか」
矢吹「(変な顏をして)ん?」
  と佐伯のそばに寄り、写真を見つめる。
  しかし、その写真に写っているのは、美紀のほかには石の床だけである。
矢吹「……淡口の屋敷じゃないのか」
佐伯「いや、あそこじゃ警察に乗り込まれれば見つかってしまう。絶対に見つからないような場
 所さ」
  矢吹、狐につままれたような顔で再び写真を見つめる。しかし、さっぱりわからないようで
  ある。
佐伯「いや、確かに見たことがある。……確かにこの場所へ行ったことがある。……ずっと昔に」
  そう言って椅子に腰かけてうつむくと、血の付いている(こぶし)で額を叩き、自分に言い聞かせる。
佐伯「思い出せ……早く思い出すんだ」
  佐伯、やがてゆっくりと顏をあげると、燃えるような眼差しで宙を見つめる。おもむろに立
  ちあがると、次第に呼吸が荒くなり、突然身を翻すと、写真を持ったまま廊下の方へ飛び出
  してゆく。
  矢吹、何がなんだかわからないまま、佐伯のあとを追う。

○ 同・書斎
  あいている入口に、矢吹が姿を見せる。すると、佐伯が机の引出しをかき回しているのを見
  つけ、変な顏をする。
  佐伯、引出しの奥から一つの袋を取り出し、その袋の中から十数枚の写真を出す。そして、
  上から一枚一枚確認しながら机の上に投げ出してゆく。
  それらの写真は、怪物像や建物の内部やマリア像……すなわち佐伯が二十年前に撮ったオリュ
  ンポス寺院のものである。
  近づいてきた矢吹、それらの写真を不可解な表情で見ている。
  佐伯、手に持っている写真の一枚を凝視する。そしてそれを左手に持ち、右手に脅迫状と共
  に入っていた美紀の写真を持って、必死に見比べる。しばらくして矢吹に、
佐伯「見てみろ」
  とそれを差し出す。
  矢吹、狐につままれたような顔でそれを受け取ると、見比べる。
  もう一方の写真は、二十年前、数人の男たちが木製の箱を運んできて隠していた、その部屋
  を撮ったものである。しかし矢吹は、まだ事情がよく飲み込めない。
佐伯「(興奮を抑えながら)わからないか。これは二十年前、オリュンポス寺院へ行ったとき撮
 った写真さ」
  矢吹、机の上の写真と見比べ、
矢吹「……ああ」
佐伯「あのとき男たちが一つの部屋に木の箱を運び込んでたろう」
矢吹「……そうだったか?」
佐伯「(ため息をつき)ま、いい、忘れたのなら。しかし、これがその部屋を撮った写真さ」
  と矢吹の持っている写真を示す。
佐伯「ここを見てみろ。(両方の写真の床の部分を指さし)石の並べ方が同じだろう」
  一方はカラー写真。もう一方は黄ばんだモノクロ写真。しかし確かに、床の石の特殊な配列
  は同じである。
  矢吹、驚いて佐伯を見、
矢吹「じゃあ、彼女がいるのはその部屋なのか」
佐伯「……いや、わからない。しかし、あの寺院の中の同じような造りの部屋の一つだろう」
  矢吹、あまりのことに呆然としている。
佐伯「(興奮を抑えられず)そうさ、彼女はあそこにいるんだ。あの彼女に似たマリア像のある
 寺院に閉じ込められてるんだ」
矢吹「……(ため息をつき)信じられないようなことだな」
佐伯「二十年前、箱を運んでた男たちは、淡口ファミリーのメンバーだったんだ。あの箱の中身
 は、おそらく武器かなんがだろう。……今まで何回もこの写真を見返していた。だから気がつ
 いたんだ」
  佐伯、そう言って何か考えると、矢吹の持っている二枚の写真を取ってポケットにしまい、
  机の引出しからピストルを取り出し、弾倉を点検する。
  矢吹、驚いてそのピストルと佐伯の顏を交互に見、
矢吹「おい、何をするつもりだ」
  佐伯、ピストルと予備の弾倉をポケットにしまうと、
佐伯「こんな雪の夜にあんな所にいたら、(こご)え死んでしまう。淡口の奴、丁重に扱ってるなんて
 抜かしやがって」
矢吹「しかし、それならまず警察に知らせることさ。場所がわかれば、一気に襲撃すればいい」
佐伯「いや、淡口のスパイから情報が漏れれば、彼女は別の場所に移されてしまう」
  と出入口の方へ向かう。
  矢吹、その佐伯に近より、
矢吹「だからって一人で乗り込むなんてのは無茶だ」
佐伯「あそこは奴らの本拠地じゃない。だから、そんなに人数はいないだろう」
  と出ていく。
  矢吹もそのあとを追って出る。


 『アフロディーテ』に戻る  シナリオ『アフロディーテ』17に進む  このページのトップに戻る