SABOの八つの世界   

      シナリオ『アフロディーテ』 4
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○ 佐伯邸の前(夜)
  高級住宅地の一角。佐伯邸の反対側の街路樹の陰に男Xが隠れている。
  向こうから佐伯の車がやって来て、門の前に止まる。運転手が降りてきて、門をあける。
  男X、ピストルを取り出し、後部座席の佐伯に狙いをつける。
  すると、男Xの後方から、ライトを消した黒い車が音もなく近づき、すれ違いざまに中の男
  が、消音器を付けたピストルを男Xに向けて発射する。
  倒れる男X。
  黒い車はゆっくりと去ってゆくが、そのときに中から黒ずくめの男が飛び下りる。
  佐伯の車、門の中へ消えようとする。
  が、男X、重傷を負いながらも銃をその方へ向け、撃とうとする。
  しかし、近づいてきた男が、男Xの体に銃を近づけると、(とど)めを刺す。

○ 佐伯邸・書斎の窓(夜)
  カメラ、その二階の窓に近づくと、中の佐伯が見えてくる。

○ 同・書斎(夜)
  佐伯、机の前に腰かけ、何か深い想いにふけっている。おもむろに上着の内ポケットから何
  かを取り出す。純金製のシガレットケースである。机の上で、そのふたをあける。そして、
  真剣な眼差しでその中を見つめている(しかし、その中身は見えない)。
  ドアをノックする音。佐伯、その方に注意を向ける。
  外で執事の声。
 「旦那様、蝋燭(ろうそく)の準備ができました」
佐伯「うむ」
  佐伯、再びシガレットケースに視線を戻す。

○ 同・書斎前の廊下(夜)
  執事、そこを去る。

○ 同・書斎(夜)
  閉じられるシガレットケース。

○ 同・「蝋燭の間」の前の廊下(夜)
  佐伯、やって来る。「蝋燭(ろうそく)()」のドアをあけると、中から光が漏れて佐伯の顔と体を照らす。
  その中へ入ってゆき、ドアを閉じる佐伯。

○ 同・蝋燭の間(夜)
  明かりの灯った多くの蝋燭の光の渦の中に(たたず)んでいる佐伯。ゆっくりと奥へ進む(奥は写さない)。
                                  (O・L)


○ 佐伯不動産・会議室
  役員会の最中。佐伯と矢吹、それに数人の重役たち。
佐伯「この案件に関して何か異議は?」
   重役たち、何も言わない。
佐伯「では、次の議題に移る」
  ドアがノックされ、佐伯の秘書(男)が入ってくる。秘書、佐伯に近づき、
秘書「星さんがいらっしゃってますが、お待たせしときましょうか」
  佐伯、少し考えるが、
佐伯「いや、ここに来させるように」
秘書「はい」
  と行こうとする。が、佐伯、その秘書に、
佐伯「あ、それから暖房が()きすぎだ。温度を下げさせるように」
秘書「はい」
  と出てゆく。
  が、別に暑いとも思わない矢吹は、やや変な顏をして佐伯を見ている。
  星が入ってくる。しかし、重役たちがいるので、少しかしこまっている。
佐伯「そこにかけたまえ。君のやってることは、もうみんな承知だ。自由に話していい」
星 「はあ」
  と言いながらも重役たちをキョロキョロ見回し、空いている席に腰を下ろす。
星 「……で、その……例のホテルニューパエトーンの件ですが」
佐伯「それはわかってる」
星 「……はあ……で、買占めは三十二万株まで進みました」
佐伯「ふむ、あともう一歩じゃないか」
星 「はあ、ところがそのあともう一歩が大変なんで」
佐伯「ん?」
星 「なにしろニューパエトーンのほうもあらゆる妨害をしてきますし、株価もすでに三十二テ
 ミスに達しましたので」
佐伯「(顏をしかめ)三十二テミス?」
星 「はい」
佐伯「君はこの前、株価が三十テミスになるまでに乗っ取りを完了すると言ったじゃないか」
星 「はあ……しかし予想と結果は、しばしば異なるものでして」
  と顔をしかめて(ひたい)を押さえる。
佐伯「何を言ってるんだ。自分の言ったことには責任を持ちたまえ。……(星の様子を見て、怪
 訝そうに)どうかしたかね」
星 「いえ、その、ちょっと頭痛が」
矢吹「ほう、君でも人並みに頭が痛くなることがあるのかね」
星 「はい、なにしろここんとこ連日の心身の過労に寝不足が重なりまして」
矢吹「ふむ、それならここの医務室に行くといい。精神科の名医がいるからね。君のような性格
 の人間は、精神医学的にみて珍しい研究材料だろうから」
  重役たちの間から失笑が漏れる。
  星、ややムッとするが、
星 「それはどうもご親切に」
佐伯「で、星君。もう株価がそれだけ上がったら、一刻も早く乗っ取りを成立させる必要がある。
 あと数日以内に買占めを完了したまえ」
星 「いえ、それはちょっと……」
佐伯「無理とは言わせない。君は一株三十テミスになるまでに完了すると言ったんだから。もし
 三十五テミスを越えたら、その分は君の報酬から差っ引く」
星 「いや、それはあんまり……」
佐伯「(徐々に声を張りあげ)いやならいやでもいい。しかし、それなら君には一ディケイも払
 えないよ。とにかくなんとしても数日以内に乗っ取りを完了するんだ、わかったね」
  とテーブルを(こぶし)でドンと叩く。
星 「(気おされて)……はあ」
  佐伯、興奮したまま、やや視線を上げる。すると、窓の外に雪がちらついているのが目に入
  る。そして佐伯の視線はそこに釘づけになる。
佐伯「(つぶやくように)雪だ……積もるかな……」
  なぜかすっかり雪に心を奪われた佐伯を、星、変な顏をして見ている。
  重役たち、怪訝(けげん)そうに、お互い顏を見合わせる。
  が、矢吹はその意味を知っているかのように目を伏せると、考えこんでいる。
  佐伯、何か急に物思いにふけりながら、無意識に指先で下唇をこする。
  重役たち、再び妙な顏をして顏を見合わせている。
  佐伯、やっと我に帰ると、落ち着かない様子で、
佐伯「きょうの役員会はこれで終わろう。残りの議題は、あすに回す」
  と言って、おもむろに立ちあがる。
  重役たちと星も、怪訝そうな顏をしながらも立ちあがる。
  佐伯、置いてあった上着を手に取ると、ドアへ向かう。
  が、その上着の内ポケットから、何かが星の足元に落ちる。
  純金製のシガレットケースである。
  星、変な顏をしてそれを拾う。が、近づいてきた佐伯、それを星からひったくるようにして
  取ると、外へ出てゆく。
  狐につままれたような顏をして立っている星、横にいる矢吹に、
星 「社長はタバコはお吸いにならなかったのでは……」
矢吹「……あの中身はタバコじゃない」
  と静かに言うと、出入口へ行く。
  星、ますますわけがわからないという顔になる。
                                  (O・L)

○ 同・中庭
  降りつづく雪。すでに二十㎝ほど積もっている。

○ 同・専務室
  矢吹が書き物をしている。
  ドアがノックされる。
矢吹「はい」
  ドアがあき、野上が顏を出す。
野上「おはよう。ちょっといいかい」
矢吹「ああ、入れよ」
  白衣を着た野上、入ってくる。
野上「寒いな。もっと暖房は効かないのか」
矢吹「無理だな、社長が温度を下げさせたんだから。医務室のほうはどうだい」
  野上、椅子に腰かけ、
野上「ふむ、やはり思った通りだ。ストレスがたまってる人間が多いな。それが体に悪影響を与
 えている。いわゆる心身症ってやつさ。仕事の厳しいノルマのせいらしい」
矢吹「ふむ、しかしそれも、こういう会社じゃやむを得ないともいえる。職業病みたいなものでな」
野上「しかし、いろいろ改善すべき点はあるだろう?……ところで、きのう面白い患者に会ったよ」
矢吹「面白い患者?」
野上「ああ、星と言ってたが、あれは例の乗っ取り屋の星かい」
矢吹「なんだ、あいつ本当に行ったのか。もっとも、ただで()てもらえるんだからな」
野上「とにかくその星が、首をかしげて変だ、変だって言ってるのさ。で、何が変なのかって聞
 いたら、タバコを吸わない社長がシガレットケース落としたっていうんだ。しかも、その重さ
 からして、どうも純金製らしいということだ」
  矢吹、徐々にその表情が険しくなってゆく。
野上「そこで、ほかに社長について何か知ってることはないかって聞いたのさ。そしたらもっと
 興味深いことを話してくれた」
矢吹「口の軽い奴だ」
野上「いや、僕が話を引き出すのがうまいのさ。それが商売だからな。で、彼が話したのは、
 『蝋燭(ろうそく)()』のことだ」
  矢吹の顔が、なおさら険しくなる。
野上「これは僕の勘だが、その『蝋燭の間』と二十年前の社長の自殺未遂とは、何か関係がある
 んじゃないか」
矢吹「『蝋燭の間』に何があるのかは、僕も知らない。……ただ、想像はつく」
野上「じゃあ、純金のシガレットケースは?」
矢吹「(ため息をつき)野上、それはたとえ君でも話せない。親友の一番の秘密に関することだ
 からな……悪いけど」
野上「(同じくため息をつき)ふむ……そうか。ま、そういうことなら仕方がないな、残念だけ
 ど。僕としては、あの人物に恐ろしく好奇心を刺激されるんだが。精神科医としても、一人の
 人間としても。……邪魔したな」
  と微笑して立ちあがる。
矢吹「いやあ」
野上「じゃ」
  と出てゆく。
  矢吹、考えこんでいる。

○ 同・中庭
  依然として降り続く雪。建物の出入口の前に、佐伯の車が止まっている。そしてその横には、
  運転手が立って待っている。
  佐伯が建物から出てきたので、運転手はドアをあける。が、佐伯、なぜか車には乗らずに、
  感慨深げに雪の中庭を見回し、その中へ進み出る。
  変な顏をして、その佐伯を見ている運転手。
  佐伯、体に雪がかかるのもかまわず、中庭の中央にたたずみ、何か想いにふけっている。
  そして近くの植込みを注視すると、そこに近づき、その上に積もった雪の側面に右手を押し
  当てる。
  それを驚いて見ている運転手。

○ 同・三階の廊下
  矢吹がやって来る。歩きながら窓外の雪の中庭をチラと見下ろす。が、急に妙な顏をして立
  ち止まり、窓に近づく。
  地上にいる佐伯が、依然として右手を雪に押しつけているのである。
  矢吹、驚きの表情でそれを見つめている。

○ 同・中庭
  佐伯、ようやく手を雪から話すと、うつろな視線を宙に泳がし、ため息をつく。そして車に
  向かう。

○ 同・三階の窓
  車に乗り込む佐伯を、じっと見守ってる矢吹。もはや、驚きより感動のほうが強い。
  佐伯の車が中庭から外へ出ていくのが見える。
  矢吹、目を伏せ、考えこむ。

○ 表通り
  雪の中を走る佐伯の車。

○ 車の中
  窓外の次々と変化する雪の街を眺めながら、物思いにふけっている佐伯。
  路面電車のチンチンというけたたましいベルの音が、すれ違いざまに車内に飛び込んでくる。
  そしてその音が徐々に遠ざかるとともに、物語は二十年前の回想へと移ってゆくのである。


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