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このページの目次
大地震の抜本的対策とは
抜本的対策の第一は首都機能移転
すべての建物の免震化をめざす
免震構造について
長周期地震動と今回の大地震
日本のすべての建物を免震に

大地震の抜本的対策とは
 私が、日本に将来起きる大地震に対して強い関心と恐怖を感じるようになったのは、今から40年ほど前のことである。当時、大学の一般教養の社会学の講義で、もし関東地方で関東大震災級の大地震が起きたら、どれほど凄まじい被害になるかという予測を聞いたのがきっかけだった。当時はまだマスコミなどで大地震が話題になることはなかったし、行政もほとんど大地震対策はしていなかった。したがって、その内容の戦慄すべき事実は、あまりにも衝撃的だったのである。

 その被害は、最悪の場合、死者が100万人に達するということだった。これは決して誇大な数字ではない。なにしろ当時、各家庭のメインの暖房器具は石油ストーブだった。しかも、転倒時の自動消火装置は付いていなかった。もし、冬の夕食時に関東大震災級の大地震が発生したなら、それらが転倒して関東中の住宅地で無数の火災が起きる。そして、住宅の密集地はほとんどが火の海になる。さらに東京の下町のゼロメートル地帯は津波により浸水し、まさに「火責め水責め」の地獄絵図が現実のものになるというのである。

 また、この講義では興味深い事実を聞いた。今までの都知事選で、大地震対策を公約に掲げた候補は必ず落選したというのである。大地震対策を述べたから落選したかどうかはともかく、少なくとも都民のなかで、それに対する関心や要望はほとんどなかったということは事実であろう。古代ローマ人は「人間は自分が見たいと欲するものしか見ない」と言ったそうだが、将来起こる大地震というのは、日本の国民が見たくない現実だったのである。

 しかし、幸いなことに、やがて行政や国民が大地震の際の被害に対してある程度関心を持つようになった。そのきっかけが「南関東地震70年周期説」である。大地震には今回の東日本大震災や関東大震災を起こした海溝型地震と、阪神大震災のような直下型の地震がある。大正12年に10万人を越える死者・行方不明者を出した相模湾を震源とする海溝型の地震である南関東大地震が、約70年の周期でやってくるという説が発表され、それに備えなければという気運が盛り上がったのである。

 その後、海溝型の大地震が起こるのは200年ほどの周期であるという説が有力になったが、直下型の大地震は70年ほどの周期で起こる可能性が高く、東京では直下型地震がいつ起きてもおかしくない。また、今回の大地震が予想外の地震だったように、予想もしなかった海溝型の大地震が関東近辺で起こらないともかぎらないのである。

 いずれにしろ、大地震の周期説により東京都などがその対策を本格的に始めたことは確かである。最も大きかったのは、石油ストーブに転倒時の自動消火装置が付いたことである。関東大震災の犠牲者のほとんどが火災によるものだったが、東京における大地震で最も恐ろしいのは火災である。その点、火災発生件数を減らすという意味で、これは重要な施策であった。また、その後、家庭のガスメーターに大地震発生の際、ガスを遮断する装置が取り付けられたり、9月1日の防災の日には大規模な防災訓練などが実施されるようになったし、非常時の食料などの備蓄も行われるようになった。

 これらの大地震対策は確かに意味のあることではあるが、だからといって東京などの大都市で大地震が発生した際のとてつもない被害が防げるわけではない。たとえば、関東大震災の時と異なり、現代は大通りに無数の自動車が走っている。沿道の家屋の火災が車に引火して炎上・爆発すれば、それがほかの車に次々と延焼して、通りが火の海になり、多くの人が避難所にたどりつけない可能性がある。その点では、ガソリンのない電気自動車の普及は単に環境のためだけでなく防災のためにも必要なのだが、それが短期間で実現するとは考えられない。また、沿道の耐震性に乏しい家屋が倒壊すれば、消防車などの緊急車両の通行も妨げられてしまう。地震発生の時間帯にもよるが、東京の墨田区・荒川区・中野区・杉並区・品川区などでは、阪神大震災の際の長田地区のように大規模な火災が発生して、その多くの部分が焼け野原となる可能性が高い。

 しかし、さらなる大きな問題は、大都市、特に東京および首都圏がとてつもない人口を抱え、そこに日本の政治・経済機能が異常に集中しているということであろう。次は、このサイトの『八道州・七新都市建設の提言3(第二章「新首都」と「新産業都市」)』から転載した文章である。

「首都機能移転に反対する学者などがよく『日本中どこにいても地震は起きる』とか反対理由を述べたりするが、これは地震の被害に対する根本的な無知にもとづく発言である。地震の被害は、家屋の倒壊など第一次被害に続き、火災発生など第二次被害が起こり、さらに水道・ガス・電気・交通などが停止する第三次被害、そしてその結果起こる全国的・全世界的な活動と機能の麻痺による経済的損失の第四次被害がある。驚くべきことは、第二次被害は都市の規模の二乗に比例し、第三次被害は三乗に比例、さらに第四次被害は都市の規模と機能集中度の四乗に比例するということである(堺屋太一氏の『「新都」建設』による)。すなわち、地震の起きる都市の規模が十倍になれば(たとえば、人口百四十万人の神戸市で起きた大地震が首都機能のある人口千四百万人の都市全体で起きれば)、火災の被害は百倍になり、水道・ガス・電気・交通などの被害は千倍、そしてその結果の機能麻痺などによって国、および世界に与える経済的損失は、さらにケタが二つほど増すことになる」

 政治家、官僚、マスコミがこのような事実を知らないとすれば、それは許しがたい無知だし、知ってて抜本的対策を怠ってきたのなら、犯罪的な不作為である。大地震、特に東京で起きる大地震の被害を減らす抜本的解決策の第一は、政治・経済の東京への一極集中を是正し、日本を多極分散型の国家へと変えることだが、官僚と政治家は今まで全く逆のことをやってきた。官僚は、企業などへの自分たちの影響力を高めるため、大阪など全国の大企業の本社を東京へ移転させるよう指導し、東京への一極集中を加速させたのである。東京で大地震が起きれば100兆円を越える経済的損失が発生し、日本経済がとてつもない打撃を受けるだけでなく、その経済的被害は全世界に及ぶ。それにもかかわらず大企業の本社をさらに東京へ集中させるというのは、「狂気」としか考えられない。もっとも、日本の官僚は、経済政策においても、不況時に緊縮財政を行うなど、多くの面で「狂気の政策」にとらわれているわけだが。

抜本的対策の第一は首都機能移転
 ただ、日本の政治家たちは、東京の一極集中を是正しようとするまともな政策を実行しようとしたことが一度だけあった。かつて国会で首都機能移転を行うという決議を行い、首都機能移転審議会でその具体策を協議したのである。しかし、新首都の候補地が決まる直前になって、この計画は頓挫してしまった。その第一の原因は、地元に首都機能を誘致しようとしていた多くの地方が、その候補から外れたとたんに、自分たちの所に首都機能が来ないならこんな計画はどうでもいいやと考え、この国家的大プロジェクトへの熱意を喪失してしまったことによる。はっきりいえば、日本全体の利益を考えず、地域エゴで行動したということだった。そして第二の原因は、首都機能の移転には巨額の税金がかかるので国の借金をさらに増やすという誤解が国民の間で広まったことである。したがって、この場合、首相が優れた見識の持主ならば、次のように国民に対して語りかけるべきだった。

「首都機能の移転は日本のために絶対に実行しなければならない政策です。たとえばアメリカは、ワシントン、ニューヨーク、ハリウッド、ラスベガスなど、様々な機能を持った都市が広大な国土に見事に分散され、均衡ある発展を実現しています。マイクロソフト、グーグル、インテル、アップル、IBMなどの優良な大企業の本社も、首都から遠く離れています。それに対し東京というのは、これらの都市や企業が集中してしまったような病的肥満体都市ともいえましょう。そのために高い地価や長い通勤時間、そして交通渋滞など、首都圏の住民は多くの不合理に悩まされているのです。

              マイクロソフト本社
       
アメリカの優良企業のほとんどは、首都からはるかに離れた地方にある(写真はマイクロソフト本社)

 何より重要なことは、ワシントンやニューヨークにはほとんど地震がないけど、日本は世界有数の地震多発国だということです。今後30年の間に東京に直下型の大地震が起きる可能性は実に70%です。その場合の被害は阪神大震災の比ではありません。建物の倒壊などの第一次被害が大きいのはもちろんですが、火災発生などの第二次被害は都市の規模の二乗に比例し、水道・ガス・電気・交通などが停止する第三次被害は三乗(たとえば、東京では最大1400万人もの帰宅難民が生じます)、さらにその結果起きる全国的・全世界的な活動と機能の麻痺による経済的損失の第四次被害は、都市の規模と機能集中度の四乗に比例するのです。

 また、東京の都市機能が麻痺してしまうと、その中にある政府は震災対策の様々な指令を適切に行うこともできなくなります。さらに、東京とその周辺で起こる大規模な天災は地震だけではありません。たとえば富士山の噴火の可能性というのも、決して空想的なものではないのです。火山噴火予知連では、活火山である富士山の噴火は将来必ず起きると警告しています。もし富士山が噴火すれば、偏西風に乗って火山灰は東へ向かい、東京も数センチの降灰に見舞われます。その結果、道路の視界は遮られ、長期にわたって交通が麻痺し、東京とその周辺は大混乱に陥ります。したがって、防災という観点からしても、首都機能の移転はすぐにでも実行しなければならない課題なのです。

 また、かつて全国の首都機能を誘致してきた自治体は、自分の所が首都機能移転先の候補地から外されたとたんに首都機能移転に賛成することを取りやめてしまったようですが、このような地域エゴは皆さん自身の首を絞めることだと気づく必要があります。首都圏で大地震が起きて日本経済が壊滅的な打撃を受けたら、いったい日本の地方はどうなりますか。地方経済も一緒に沈むことになるんです。自分の地方が短期的に得か損かという近視眼的思考ではなく、日本全体の長期的な利益と繁栄のことを考えて行動してください。

 ただ、首都機能の移転には巨額の税金が必要で、国の借金をさらに増やしてしまうと考えている国民が多いでしょう。しかし、これは全くの誤解です。新首都の建設に必要な投資のかなりの部分はホテルなどのサービス業などの施設であり、これは民間による支出です。しかも、新都市の土地は坪10万円程度と大変安いため、これを取得した国は民間に貸すことにより莫大な土地の賃貸料を得ることができます。さらに首都機能が移転したあとの霞が関や永田町などの土地や建物を売却すれば、首都機能移転のために投入しなければならない税金というのはほとんどありません。

 そのうえ新都市建設という公共事業は乗数効果がきわめて大きいため、経済を活性化して税収を増やします。すなわち、首都機能の移転は、国の借金を増やすどころか、逆に減らすのです。それにもかかわらず、これに反対する理由はあるでしょうか」


 しかし、首都機能移転が凍結されたときの首相は、デフレ時に公共事業をメチャクチャに減らした愚かな宰相、小泉純一郎であった。とてもこのようなことを考えるだけの知識も見識もない。さらにもう一人、愚かな政治家である石原慎太郎東京都知事は、かつて国会等移転特別委員会に乗り込んで「きみたちはバカだ」と一喝した。石原氏は小説家だから、東京で大地震が起きたときの凄まじい被害に対する想像力は持ち合わせていると思う。それにもかかわらず首都機能移転に反対するのは、「頑迷な老人が東京都民と周辺の県の住民に抱きつき心中をしようとしている」としか思えないのである。もっとも、東京都といっても、47都道府県の一つにすぎない。国と地方に首都機能移転への確固たる意志があれば、東京都の反対などは問題ではない。いずれにしても、まともな政治家が日本の首相になって、一刻も早く首都機能の移転に取り組むことが望まれる。

 また、首都機能移転問題において愚かだったのはマスコミも同様である。読売新聞はかつて首都機能移転は理想論だと社説で述べ、現実的な考えではないという意見だった。ところが首都機能移転が国会で議論されるようになると、「首都移転について議論するのは10年遅い」と書いて、急に推進派としての意見を前面に出すようになった。ところが、地域エゴなどが原因で国会での議論が移転中止に傾いてくると、首都機能移転などやめてしまえというような意見に再び戻ってしまったのである。この愚かな「コウモリ新聞」は、今度の震災をきっかけに首都機能移転論議が盛んになったなら、再び「やはり首都機能移転については真剣に検討すべきである」とでもいった意見を社説で述べるのだろうか。

 さて、日本における大地震の抜本的対策の一つは首都機能の移転であるが、実をいうと、東京の一極集中解消にはこれだけでは不十分である。当サイトの「八道州・七新都市構想」を読んだ人はおわかりだろうが、いくら政治機能が東京から移転したとしても、多くの主要企業やメディアが残ったままでは、やはり東京は「病的肥満体都市」から抜け出ることはできない。したがって、その目的を実現するためには、どうしても「八道州・七新都市構想」の実現が不可欠である。それについては当サイトの論文を読んでいただきたい。

すべての建物の免震化をめざす
 今まで述べてきたように、首都機能の移転を中心とした東京の一極集中の解消が大地震の抜本的対策でもあるわけだが、もちろんこれだけで大地震の甚大な被害から逃れられるわけではない。政治経済機能の多くが東京から出ていき、多極分散型の国家を形成するということは、東京で大地震が起きた際に日本が政治的に機能麻痺に陥り、経済的に壊滅的な打撃を受けることを避けるという意味ではきわめて有効ではあるが、依然として首都圏は巨大都市であり、現在のままでは大地震による家屋の倒壊や大火災、それにインフラのとてつもない被害は防げない。これは東京にかぎらず大阪・名古屋などの大都市を大地震が襲った場合も同様である。

 私は今から40年ほど前の十代の終わり頃に、「日本は首都移転すべきである」「日本は大地震対策を最重要政策の一つにすべきである」と考えていた。そして今から20年ほど前、すなわち阪神大震災が起きる以前に、「日本のすべての建物は免震構造にすべきである」と考えたのである。そしてこれこそが大地震に対する第二の抜本的対策である。

 免震構造というのは、建物の土台に積層ゴムなどを使い、大地震の際の地震の揺れを大幅に減らす装置である。震度7の地震でも震度4程度の揺れにしてしまう。これはある意味、革命的な技術といえよう。地震はなぜ恐ろしいのか。もちろん今回の東日本大震災のように、津波による甚大な被害もある。崖崩れや土地の液状化もある。しかし、多くの地震の被害は「建物が揺れる」ことで起きる。阪神大震災を起こした直下型の地震はもちろん、関東大震災を起こしたような海溝型の地震でも、その犠牲者や負傷者のほとんどは建物の倒壊や火災によるものである。あるいは転倒する家具や電気製品などの直撃を受けたことによる。すなわち建物が「揺れる」ことによるものだった。この「揺れ」を大幅に減らすというのは、有史以来の日本の民衆の悲願であったといってもいいだろう。日本人を何千年にもわたって苦しませ続けた災害から、これによって逃れられるのであるから。そしてその夢の技術が、まさに免震構造という形で実現したのである。

           
       首相官邸には免震構造が採用されているので中にいる人間は安全だが、一般国民は……

 しかし、これが発表された当時のマスコミの反応は鈍かった。何か物珍しいものを紹介するという感じだった。しかし、その後、阪神大震災が起きた。この大震災は大変な悲劇ではあったが、当然これによって日本の大地震対策は大きく前進すると私は考えたのである。新しく建設されるビルは免震構造とすることが標準化されるとも思った。建物を免震構造にするコストは、建設されるビルの規模にもよるが、現在では建設費の5%、当時でも10%程度だった。土地を含めた不動産価値からすれば、ごくわずかな支出である。しかも、バブル崩壊後は建設費は大幅に下がっているから、この程度の支出をするのはなんでもないはずである。しかし、政治家や官僚は何もしなかった。免震構造の義務化はもちろん、「これから建設される建物は、できるだけ免震構造にすることが望ましい」とすら言わなかったのである。私はあきれた。阪神大震災の多くの犠牲者たちの尊い死を無にするのかと。

 確かに、政治家にとって大地震対策というのは票にならない。前にも述べたように、大地震対策を公約に掲げた都知事候補は落選したといわれるくらいである。阪神大震災や今回の震災のように大災害が起きると、しばらくは選挙の時の公約に地震対策をあげるが、月日がたって人々から地震の記憶が薄れるにしたがって、いつのまにか地震対策というのは「防災の日」に思い出す程度のものにされてしまう。多くの政治家にとって票を集められない公約は意味のないものである。選挙のことが関心の大半を占める彼らにとって、地震対策などどうでもいいものになってしまう。ひどい場合は、民主党のように、地震対策費を削ってバラマキの子供手当てなどに回すというようなことになる。私は、菅直人氏が首相になってから何回か考えた。「この首相の頭の片隅には地震の“じ”の字もないんだろうな」と。そして東日本大震災は起きた。

 さて、免震構造の話に戻ろう。大都市の大地震対策を進めるに当たって、まずいわれるのは建物の耐震化である。確かに免震どころか、日本の建築物にはまともな耐震化もされていないものが少なくない。もちろんこれらの建物はきわめて危険である。大地震の際、倒壊して中にいる人が圧死する可能性があるのはもちろん、火災の多くは全壊・半壊した建物から発生する。また、倒壞した建物は避難路をふさぎ、人々が避難所へ行くことや、消防車や救急車の通行を妨げる。したがって、応急措置としては、これらの建物の耐震化を進めることは急務といえよう。しかし、いくら建物を耐震化しても家具や電気製品などの転倒や、建物の火災を完全に防ぐことはできない。中の人間が大きな怪我をすれば、津波や火災の際に逃げることも難しくなる。建物自体が揺れに持ちこたえても、揺れるビルから窓ガラスなどが落下する危険もある。また、揺れに対する人々の恐怖も大きい。建物を免震化すれば、これらをすべて防ぎ、都市によっては「完全防災都市」にもできるだろう。これを実現するのに多額の費用がかかるというならともかく、新築のマンションやオフィスビルに免震構造を適用する費用はきわめて安い。それなのにこの建築法を標準化しない理由があるだろうか。

 したがって、日本全体の建物を免震化するというのは、たとえ100年かかっても実現しなければならないことである。幸か不幸か、日本の建築物の寿命は世界的にみてもきわめて短い。ヨーロッパの多くの建築物のように、築100年を越える建物というのはほとんどない。したがって、新築のビルの免震を義務化すれば、数十年後には大半のマンションやオフィスビルなどは免震構造になる。数十年待たなくても、10年、20年と時間がたつにしたがって着実に免震構造のビルは増え、都市の防災機能は確実に向上する。その点では、阪神大震災のあとに免震構造の建物を増やす政策を政府がとっていれば、免震化されたビルは今までにずいぶん増えていたろうにと思う。戦後、東京で70年近くも大地震が起きなかったことはきわめてラッキーなことだった。神様がそれだけの猶予期間を与えてくれたともいえる。しかし、その貴重な時間を、日本は抜本的な大地震対策をすることもなく、無為に過ごしたのである。これに対し、国や東京都などは反論するだろう。建物の耐震化や都市の再開発、避難所の指定や整備など、それなりの地震対策は進めてきたと。確かに、これらは重要な政策である。しかし、抜本的な大地震対策ではない。日本における抜本的な大地震対策とは、津波対策を別にすれば、東京の一極集中の是正と、日本中のすべての建築物の免震化なのである。

免震構造について
 さて、免震構造といっても、多くの人はこれについて「建物の揺れを減らす」というぐらいの認識しかないだろう。ある程度知識のある人でも、この工法に対する疑問が少なくないと思う。そこで、私が得た知識の範囲内において、この建築方法における疑問や問題点などについてQ&A方式で説明しようと思う。

○ 免震構造は超高層ビルでは採用できないのではないか。
 以前は超高層ビルでは採用できなかったが、現在では技術の進歩により可能になった。

○ 免震構造の建物は、地震の横揺れには有効だが、縦揺れには効果がないという。
 その通りだが、人間の体感で縦揺れが主と感じられる地震でも、実際は横揺れのほうがはるかに大きい。しかも、建物に大きなダメージを与えるのは横揺れである。したがって、縦揺れが大きな地震に対しても有効である。

○ 免震構造の建物は、地盤が弱い土地や液状化の起こる土地では採用できないというが。
 国の審査を通れば可能である。ただ、液状化の起きる可能性のある場所は、地盤の改良工事をすることが先決であろう。

○ 免震構造の建物は、隣のビルとの間が離れていないと無理だというが。
 免震装置の種類にもよるが、不特定の人が通行しない場所なら50㎝程度離れていれば大丈夫ということである。

○ 免震構造の建物は、強風に弱く、台風が来た時など大きく揺れるというが。
 IAUというメーカーの免震構造は主に住宅に採用されているが、ふだんは免震機能がロックされていて風で揺れないようになっており、震度4程度以上の大きな地震が来たときにロックは解除されて免震装置が働くということである。また、ロック解除に電源は必要ないので停電時でも心配ない。

○ 大地震の長周期地震動では免震構造の効果が出ず、場合によっては装置が共振して危険ということも聞くが。
 その可能性は指摘されている。ただ、最近の免震構造では、共振を減らす装置も付いているようである。また、IAUの免震装置は積層ゴムなどは使用しておらず、共振は起きないということである。セキスイハイムなどはここと共同開発した方式を採用しているようだが、価格は高めではある。しかし、私が家を建てるとしたら、こちらの方式を選ぶ。

○ 免震構造を採用したビルは大地震時の揺れが少ないため、鉄筋などを減らしてコストを削減するケースがあると聞いたが。
 免震構造を採用したからといって、100%うまく機能するとはかぎらない。装置によっては長周期地震動と共振する可能性もある。したがって、建物自体の耐震性は下げるべきではないと思う。

○ ビルの免震化のコストは安くなったが、戸建て住宅の免震化は費用が高いのではないか。
 戸建て住宅を免震構造にする価格もずいぶん安くなったが、それでもマンションなどのビルに採用する場合と較べると、延床面積あたりのコストが大幅に高いことは事実である。延床面積40坪の家で、積層ゴムを使った方式で200万円~300万円、より安全性が高いと思われるIAUの方式で300万円~400万円ということである。将来はよりコストが削減される可能性はあるが、大きく普及させるためには税制面での優遇措置など国の支援が不可欠である。

○ 戸建て住宅などで高価格の免震構造にしても、建て替えるまで大地震は来ないかもしれない。すると損したような気がするが。
 このような疑問に対して、ネットの書き込みに「車にエアバッグを付けたのに交通事故に遭わなかったから損したと考える人はいないだろう」と書いてあって、なるほどと思った。火災保険に入っているのに家が火事にならなかったから損したと考える人もほとんどいないだろう。耐震性があっても免震でない家は、自分のみならず家族も大地震の際に家具や電気製品などで死傷する危険性がある。住宅の密集地などでは、大地震の際に大火が起こる可能性が高いが、皆が免震の家やビルにすれば、そもそも火事は起こらない。東京など大都市で起こる地震の総合的な被害は凄まじいものになるが(東京の場合は100兆円以上の可能性)、これも大幅に少なくすることができる。すなわち、家を免震にするということは、自分と家族を守り、地域を守り、国を守ることでもあるのである。

長周期地震動と今回の大地震
 以上が免震構造の説明だが、地震の長周期地震動について次に説明しておきたいと思う。地震の揺れには、短周期と長周期のものがある。これについてWikipediaでは次のように説明している。

「例えば、日本家屋のような木造住宅は周期1秒前後の短周期地震動が固有振動周期にあたるため、周期1秒前後の地震動によって共振が発生し非常に強く建物が揺さぶられ、壊れやすく被害が拡大しやすい。一方、高層建築物は周期5秒以上の長周期地震動が固有振動であり、地震波が堆積平野を伝わる過程で発生しやすい長周期地震動によって、平野部の高層建築物の高層階では大きな被害が発生する」

 超高層ビルで長周期地震動の被害を防ぐには、制震装置というのを付けなければならない。しかし、現実には、新しい一部の超高層ビルをのぞいては制震構造にはなっていない。東日本大地震では、東京の制震構造になっていない超高層ビルは10分以上にわたって左右にゆっくりと大きく揺れ、建物の壁に亀裂が入るなどダメージを受けた所もある。近々発生する可能性が高いといわれている東海地震・東南海地震・南海地震では、この倍以上の凄まじい揺れに見舞われるという。当然これらのビルには、制震構造にする工事が必要だが、高額の費用がかかるためなかなか進んでいないのが現状である。東京・名古屋・大阪の超高層ビルを中心に、国は制震化を進める政策を全力で行わなければならない。

 しかし、この長周期地震動は超高層ビルのみならず、積層ゴムなどを使った免震装置とも共振する可能性があるといわれている。先程も説明したように、最近の免震装置には長周期地震動における共振を防ぐ工夫もなされているようだが、それが現実にどの程度の効果があるのかは不確実な部分がある。なにしろ大地震、特に免震構造のビルがあるような都市を襲う大きな地震というのはめったに来るものではないから、検証できるような実例が少ないのである。また、住宅では大型の実験装置で実際に地震を起こして確かめることもできるが、ビルの場合はコンピューターでのシミュレーションによる検証が主となる。その点、今回の大地震は免震装置の効果を確かめる貴重なデータを数多く提供していると思う。次に、私の得た情報の範囲内で、今回の地震において免震構造の建物が実際にどの程度揺れを減らす効果があったのかについて述べようと思う。

 その前に、阪神大震災のときに新聞に載った免震構造のビルの揺れについての記事について触れたいと思う。当時はまだ免震構造のビルはほとんどなかったが、新聞で紹介していた神戸のビルでは揺れを減らすことに大きな効果があったという。もっとも、この大地震は直下型なので短周期地震動を発生し、木造家屋が共振して凄まじい揺れを起こし、壊滅的な被害を与えた。したがって、少なくとも震源地に近い場所では長周期地震動は発生していなかったわけで、免震ビルで地震の揺れを大きく減らす効果があったことは当然だったともいえよう。

 さて、今回の東日本大地震だが、地域によって短周期や長周期、さらにその中間など様々な種類の揺れが生じたようである。仙台では3月11日の大地震と、その後の最大余震で震度6の大きな揺れに見舞われたが、免震構造のマンションではテーブルから物が落ちることもなかったという。やはり絶大な効果があったのである。ただ、仙台の揺れは長周期地震動ではなかったと思う。

 これに対し、関東地方では震源が遠方であり、地盤が長周期の地震動を起こしやすいということから、長周期地震動が発生した。震度5強の東京では比較的新しい東京都庁のビルでさえ長時間にわたり左右にゆっくりと揺れたという。では、免震構造のビルはどうだったのだろうか。実は、私の親戚に都心の大手銀行に勤めている男性がいるが、そのビルは免震構造らしい。大手の金融機関などは、顧客のデータなどが保存されているコンピューターのハードディスクなどを保護するために、ビルに免震装置を取り入れている所が多いと聞く。3月11日の大地震が発生したとき、銀行のビルにいた彼は、それほど大きな地震だとは思わなかったそうである。ところが窓から隣のビルを見ると、ものすごく揺れていたので驚いたという。やはり、免震装置は大きな効果を発揮したのである。

 日本橋の三越本店は古い建物だが、近年免震構造にする大がかりな工事を行った。ほかのデパートの地震発生時のビデオを見ると、商品が棚から落ちて客や店員がパニックぎみになっているところもあったが、三越ではかなりの揺れは感じたものの、商品が落ちるようなことはなかったという。(ただし、これはインターネットの伝聞による書き込みによる情報である)

                  
                 日本橋三越に設置された免震装置(筆者撮影)

 では、すべての免震ビルが地震の揺れを軽減するのに大きな効果を発揮したのかといえば、そうともいえない情報も少しある。関東地方のある免震マンションでは、十数階に住んでいる人が、免震の効果をあまり感じなかったという。その原因が、長周期地震動によるものなのか、あるいは高層階では免震の効果もあまり生じないのか、それともその免震装置の構造そのものに欠陥や不備があるのか、それはわからない。

日本のすべての建物を免震に
 このように、今回の大地震で、一部には免震構造の効果に疑問符を付けられるようなケースもなくはないが、全体としては地震の揺れを軽減することに大きな効果があったということはまちがいない。確かに、特に大都市における耐震性に欠ける建物の耐震化を進めることや、超高層ビルに制震構造を取り入れることは喫緊の課題ではある。が、同時に、根本的な大地震対策として、「日本中のすべての建物の免震化をめざす」ということは、やはり地震多発国の日本では押し進めなければならない政策といえよう。では、これを実現するためには具体的にどのような手立てを講じればいいのだろうか。それについて検討してみよう。

 まず第一に、これから建設される4階建て以上のビルは、原則として免震構造にすることを義務づけることである。新築のビルに免震構造を取り入れるコストは平均して建設費の5%程度である。建設費がバブル経済の崩壊以後に大幅に下がったことを考えれば、きわめて安いコストといえよう。しかもこれを実行することにより、大地震の際に中にいる人間の生命や財産が守られ、火災の発生を防げるだけでなく、建物がダメージを受けて資産価値が下がることや建物の修繕の費用を支出することも免れることができる。こうしたことを考えれば、前にも指摘したように、このような政策は阪神大震災のあとに、すぐにも実行すべきであったといえる。ただ、地盤の関係などで免震構造にすることが難しいビルは、当然例外扱いとなる。

 ただ、新築のビルはともかく、戸建て住宅などの場合は建設費における免震化のコストの割合はかなり高いので、義務化することは難しい。そこで、免震住宅における税の免除や優遇措置を取り入れるのが望ましいと思う。実際、現在の税制では、耐震性に問題のある住宅を建て替えて地震に対して安全な家にすると、固定資産税も相続税も跳ね上がる。これでは住宅の耐震化や免震化を大きく進めることは困難である。固定資産税は地方税で、地方公共団体においては貴重な税収源なので下げることは難しいが、国税の相続税の免除・優遇措置なら可能だろう。実際、オーストラリアのように相続税がない国もあるわけだから、免震構造を取り入れた住宅の相続税を免除することはきわめて妥当な政策といえるのではないだろうか。特に高齢者の場合、家の建て替えや新築をしようとしても、相続時までに家の減価償却があまり進まず高額の相続税が課せられるため、躊躇せざるをえないケースが多いと思う。しかし、このような優遇措置を行えば、免震住宅を増やすことに大きな力となるのではないかと思う。

 私はこの相続税を免除する住宅の条件として、免震構造だけでなく、太陽光発電システムも取り入れた「免震ソーラーハウス」にしたらいいと思う。ビルの陰になるなどしてソーラー発電が取り入れられない住宅は別にして、これによって免震構造の住宅と太陽光発電が増えるのだから一石二鳥である。いや、新築住宅が増えることにより内需が拡大して経済が活性化するから一石三鳥だろうか。この法律は10年間の時限立法ということにすれば、こうした住宅を増やすことをさらにスピードアップできるだろう。10年たったらこの法律の延長措置を考えてもいい。また、こうした税の免除措置は新築の住宅のみならず、免震ソーラーハウスに改築した住宅にも適用するのが望ましい。また、既存のビルを免震構造に改築した場合も、ある程度の税の減免措置を行うことを検討すべきだろう。(『私のマニフェスト9』で指摘したように、免震ソーラーハウスに固定資産税の優遇措置も取り入れ、それによって地方税の税収の減った分はパチンコ税などで補うという方法も考えられる)

 さて、最後に、日本がこれから取るべき大地震対策についてまとめてみよう。まず、耐震性に問題があるビルや住宅、特に大都市における建造物の耐震化を大至急進めることはいうまでもない。すべての超高層ビルに制震構造や免震構造を取り入れることも喫緊の課題である。また、津波の被害の可能性のある地域は、住民の避難タワーを建設するなどの対策を講じる必要があることももちろんである。

 しかし、これらの応急的な政策と同時に、地震多発国の日本は、大地震に対する中長期的な抜本的対策も同時に進める必要がある。その抜本的対策とは、東京をはじめとする大都市への政治・経済・文化の過度の集中を是正して、多極分散型の国家を創造すること、そしてすべての建造物の免震化をめざすことである。そのためには新築のビルは原則として免震構造にすることを義務づけ、また、戸建て住宅の場合、新築、および改築された「免震ソーラーハウス」の相続税を免除するという方法が考えられる。

 以上が大地震の抜本的対策における私の提案だが、藤井聡氏の『列島強靱化論』(文春新書)という本には、大地震対策のいくつもの具体的な案が提示されている。一読をおすすめしたい。


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